「実はね、たけうちさん。
私は社長がこんなに懐の大きい人だとは
思っていなかったんですよ。」
平井さんは笑いながらそう言われました。
「えっ、そうなんですか?
あんなに尊敬されていたのに。」
「いやいや、以前から私は確かに社長のことは
尊敬していましたが、
以前の私は社長に依存してましたから。
社長に歯向かうのが怖かったですし。
多分、社長にとって私は最高のイエスマンだったと
思いますよ。
極端な言い方かも知れませんが、
私は社長から認められる人間になるために、
社長を尊敬したのではないか、とさえ思うんです。
今となってはね。
要するに、それは本当の尊敬ではなくて、
尊敬のふりをしていたわけですね、自己保身のために。
でもね、今は本当に尊敬してるんです。」
「どんなところが懐が大きいと?」
「だって今の私は多分、社長にとっては最も
嫌な存在ではないかな、と思うんです。
平気で歯向かいますから。
社長、それは違うと思います、私はこう思います、
って社長の気持ちも考えずに言ってしまうんです。
でも、社長はどんな時もちゃんと最後まで私の話を
聴いてくれる。
その上で丁寧にキャッチボールをしてくれる。
私はね、自己保身を捨てて、自分の本心を大事にして、
自分なりの理念のもとに今は生きています。
そうなって初めて、社長って大きい人だったんだ、って
今は本当に思いますよ。
そんなことは社長に言ったことはありませんが。笑」
目の前で社長が苦笑いしていました。
「社長、いかがですか? 今の平井さんのお話に
ついては。」
「いやぁ、平井がね、こんなにも手強い相手だとは
思っていませんでしたよ。笑
私はたけうちさんにね、平井を自由にしてあげてください、
と依頼をしたんですが、本当に自由になったら、
こんなヤツだったんだ!とびっくりですよ。」
そう笑いながら、
しかし直後に社長は真面目なお顔になり、
「いや、実は今の平井の方がやりやすいですよ。
なぜなら、本当の話をしてくれるからです。
今、現場で何が起きているのか?
彼の話を聴けば、現場がわかります。
以前は、そんなことはありませんでした。」
私は社長に問いました。
「社長、社長が今、一番望んでいることは
何ですか?」
「私が望むこと?
そうですね。それは、平井が望むことを実現してほしい、
ということです。」
平井さんがちょっとびっくりした表情を
されました。
私はさらに問います。
「では、平井さんは何を望んでいますか?」
「私の望みは、社員全員の望みを実現すること、です。
それは綺麗な言葉に聴こえるかもしれませんが、
生半可なことではありません。
なぜなら、ウチの社員はまだ、自分の本当の望みを
全然わかっていないからです。
なぜわかっていないかと言いますと、
仕事の仕方が中途半端なんです。
まだ“プロ”ではないからです。
本当にお客様のために仕事をする、ということが
経験できていないからです。
我社には、社長の創られた美しい理念があります。
そして、お客様が喜んでくださる商品・サービスが
あります。
社員は皆、本当に人間的に素晴らしい人が
多いです。
一致団結もできます。
でも、それだけです。
理念もいい。商品もいい。社員もいい。
でも、ただそれだけなんです。
私は今の我社は、つまらない。
はっきり言って、つまらない。
みんなが、いい会社に入れて、いい仕事ができて
幸せだ、と思っている。
それ自体は素晴らしい。
でも、それだけで終わっている。
それがつまらない。
もっともっとみんな、凄いことができるはずです。
与えられた業務、与えられた役割を遂行するのは
当然ですが、
でも、自らその与えられたものを突破してほしい。
もっともっと人間として、
こうしたい!ああしたい!これがやりたくってしょうがない!
そんな声が上がるような組織に
私はしたいのです。」
平井さんのエネルギーがジンジン私に
伝わってきました。
「では、平井さん。
今のそのお気持ちを、改めて社員さん達にメッセージ
してください。」
平井さんは立ち上がりました。
そして社員さん達の方を向きました。
そうです。
以上のやりとりはすべて、全社員さん達の前で
行われた公開コーチングでのやり取りです。
それは何の事前打合せもありませんでした。
完全なアドリブです。
私はただ、社長にも平井さんにも
「そこに社員さん達がいるということは忘れてください。
いつもの通りのコーチングだと思ってください」
ということのみをお伝えしてありました。
で、本当にいつものコーチングの風景が
そこに展開されました。
私はそのいつもの風景こそを、社員さん達に
お見せしたかったのです。
この時、平井さんは社員さん達に、
実にシンプルなメッセージをお伝えになりました。
それは、平井さんの真本音メッセージでした。
つづく