葛藤を伴った前向きさ。
それは非常に不安定なものです。
常に前向きであろうと頑張り過ぎる人ほど、
私は注意をします。
その前向きさに合わせて物事を進めれば、
多くの場合、どこかで無理と不調和が生じるからです。
これを、
反応本音レベルの前向きさ、
と言います。
それに対して、
真本音レベルの前向きさ、
というものがあるのですが、しかし実はこれは
あまり的確な表現ではありません。
なぜなら真本音に素直に生きている人は、
自分が前向きかどうか、
なんてことは眼中にないからです。
前向きだろうが、後ろ向きだろうが、
今自分のすることは、今する。
ただそれだけのことだからです。
その姿を周りの人達が見ると、
「あの人はなんであんなにいつも前向きなんだ?」
という印象になるだけのことです。
真本音で生きるとは、
本人にとってはとてつもなく自然な状態です。
私のコーチングは、まずはクライアントさんが
そのような状態になる(・・・というよりも「戻る」)ことを
大切にしています。
単に勢いに任せて目標設定やコミットメントをして
勢いに任せて突き進む、ということを
私は、極力止めます。
勢い任せの前進ではなく、
本当に真本音に根ざした前進であれば、
そのクライアントさんの天然の魅力や個性や力が
発現し始めます。
木村さんの天然の力は
『創造力』
です。
そしてその創造力とは、
『調和力』
を伴ったものです。
調和力という言葉は聞き慣れないと思います。
これも私の造語になるのでしょうか。
いつ間にか企業現場で自然に使うように
なっていました。
調和力を持った人は凄いです。
その人は特に何もしなくても、
その人がその場にいると明らかに
そこにいる人達の調和度合い(調和性)が高まるのです。
単純に言えば、例えば、
その人がいなければ言い争いになりそうな議題でも
穏やかにコミュニケーションが進んでいきます。
それだけでなく、
一人一人が個別で考えても決して出てこないような
斬新で本質的なアイデアが、
その場で生み出されるようになります。
調和力を持った人が、
そこにいるかいないか?
その違いだけ、でです。
ですので、私は組織コーチングをする場合、
その組織の中で調和力を持ち合わせている人を
いつも探します。
そしてその人の調和力を引き出すコーチングを
します。
そしてその人を、要(かなめ)として活用しながら
組織活性化を推進します。
その方が何倍も効果が違ってくるからです。
つまり調和力とは、
その人の存在そのものが発揮する
独特の力です。
木村さんにはそれがあったのです。
しかも木村さんの場合は、
その調和力という土台の上で、
新たな道を創り出していく逞しさ(創造力)も
ありました。
彼はもともと自信家の個性を前面に出していましたが、
実はその「自信家ぶり」自体は決して悪いことではないのです。
彼のその自信の根元にあったのは、
自分は新たな道を切り開いていける、という確信から
来るものだったのです。
しかし反応本音のみで生きていた彼は、
自己保身のために、その自信家ぶりを発揮して
いました。
それにより周りからの信頼を減らしていたのですから、
非常に勿体ない個性の使い方をしていたわけです。
要するに、
真本音で生きれば、自分の個性は
良い発揮の仕方をするわけです。
しかし真本音度合いを下げることで、
自分の個性を、自分を下げる方向に使ってしまう。
・・・そういった場面をこれまで私は
本当に数え切れないくらいに見てきました。
つくづく「勿体ない」の一言なんですよね。
木村さんの上司である平井さんは
こういった彼の特性を何となく掴んでいました。
だから、
「木村が真本音度合いを高めれば
必ず凄いことになる」という確信を持ち、
私に木村さんのコーチングを依頼されました。
そして、彼の天然の力が発揮され始めたのを見て、
すかさず、木村さんに「環境」を与えたのです。
それが、新規事業プロジェクトのリーダーという
立場です。
平井さんのマネジメントは「見事!」と
言うほかありません。
さて、話をもとに戻しますが、
新規事業プロジェクトのリーダーという役割を
平井さんから指示された時の木村さんは、
なぜ自分が?と疑問に思い、それを断ろうとしました。
そのタイミングで私のコーチングがありました。
私は木村さんに、なぜ平井さんが
木村さんをリーダーにしようとしたか?の理由を
詳細に説明しました。
調和力と創造力のお話も当然しました。
木村さんは、非常に恐縮されました。
「私のことを買いかぶり過ぎだと思うんです。
平井も、たけうちさんも」
と彼は言いました。
真本音度合いを高めることで
妙に謙虚になる人は、結構います。
恐らく、
これまでの自分の「芯のなさ」を知ってしまった故だと
思います。
ですから、謙虚になること自体は悪いことでは
ありません。
しかしだからと言って、
行動まで謙虚になる必要はありません。
本質的な謙虚になった人ほど、
大胆な行動をとっていただくことが
成果に結びつきます。
その環境を与えられる、という「現実」を
私は待っていました。
謙虚になった木村さんが、
目の前の「現実」に対して大胆に向かっていく。
これが、私のコーチングサポートの
次のステップでした。
つづく