ここからは平井さん関連のエピソードを
またご紹介します。
平井さんの部下に
木村さん(仮名)という男性社員さんがいます。
30代の社員さんなのですが、
彼は非常に真面目です。
平井さんからの指示を常に忠実に
実行に移します。
平井さんのことをある意味最も理解している人
と言ってもよいでしょう。
しかし平井さんからすれば
彼のことが、悩みの種の一つだったのです。
なぜか?
「彼は、私の指示を100%実行してくれて
それはとてもありがたいし頼もしいのですが、
101%以上のことが決して出てこないのです。」
これはある意味、贅沢な悩みかもしれません。
しかし、
平井さんがこう言われるのも私はわかるのです。
なぜなら、
木村さんの本質は「ハチャメチャさ」だからです。
本当はもっともっとハチャメチャに
既存の枠を壊すくらいのことを「しでかす」ような
人なのに、その要素が仕事ではまったく
出てきません。
木村さんは趣味でロックバンドをやっており、
かなり激しいパフォーマンスを見せるのですが、
それが仕事ではまったく見られないのです。
「私は、あのロックを歌っている時の彼が
彼の本質だと思うんです」
と平井さん。
私もそう思いました。
「たけうちさん、
彼のコーチングをお願いできませんか?」
と平井さんに依頼されて、私は木村さんのコーチングを
することになりました。
こういった場合、
私は単刀直入に本人にお訊きします。
「ロックバンドをやっている時の木村さんが
本当の木村さんだと思うのですが、
それを仕事では出してないようですね。
何か理由があるのですか?」と。
明確な答えが返ってきました。
「ロックは自分を開放する場です。
仕事は、役割に応じて自分をいかに演じるか?が
大事だと私は思っています」と。
これはよくある話です。
自分の「人生」と「仕事」が
分離しているのです。
仕事は仕事。
プロとして、本来の自分を抑えて
与えられた業務に徹すること。
それこそが大事。
・・・であると。
これは一見もっともなように思えますが、
実は、私はこういった考えを持った人で
その人本来のパフォーマンスを発揮し切れている人を
見たことがありません。
「宝の持ち腐れ」という言葉を
いつも思い出します。
木村さんは典型的なそのタイプでした。
しかし彼には彼なりの
仕事に対する考えがあります。
それを否定したとしても、意味はないでしょう。
人は自分の考えを真っ向から否定されると、
その瞬間から「拒絶モード」に入ります。
人が人を変えることは
基本的には、できません。
本人が「自分を変えよう」と
本気で思わなければ、その人は変わりません。
外からの圧力で変えることはできない。
内からの圧力を喚起すること。
それが、他者ができる最大のサポートです。
私はいつものごとく、
木村さんの真本音を探し出すことに
すべてのエネルギーを注ぎました。
木村さんの真本音は、
今の自分をどう思っているのだろうか?
それを知りたかったのです。
私は彼に問いました。
「木村さん、
ロックバンドをしている時のご自分を
仕事で発揮することはできませんか?」
・・・かなり単刀直入なご質問です。
「それは無理ですね」
とすぐさま答えが返ってきました。
「それをしたら、私は与えられた業務を
全うできなくなります。
プロではなくなります」と。
「それを平井さんが望んでいるとしても?」
「はい。
平井からはよくそのお話を聴くのですが、
その通りにすると絶対に平井に迷惑が
かかります。
私が本性を出したら、会社が迷惑です。
それは私自身が一番よくわかっていますから、
私は自分を出しません。
その代わり、与えられたミッションは
必ず果たします。」
かなり、強固な信念です。
しかし私はそれを聴いた瞬間に
彼の「モロさ」を感じ取りました。
あぁこれは、彼の真本音の望む仕事の仕方
ではないな、と直観したのです。
であれば、話は早い。
彼の真本音度合いを高めるだけで、
彼は自然に変わるでしょう。
つづく