白い龍が

空を

駆け昇っていく。

 

まっすぐに

上のみを

見つめ。

 

龍は、

あらゆるものを

手放した。

 

手放さなければ

昇れない

からだ。

 

その龍の勢いを

見れば、

人は

「いいなぁ」

思うだろう。

 

自分もあんな風に

上昇したい、

と。

 

あんな風に

潔く

いろんなものを

手放せたら

いいのに、

と。

 

でもきっと

あの龍は

特別なんだ。

凡人の

自分とは違う、

と。

 

しかし実は

まったく

事実は

そうではない。

 

龍ほど

人の苦しみを

狂うほどに

感じた者は

いない。

 

あまりの

苦しさに

何度も

自身を失った

者はいない。

 

龍ほど

悩み続けた

者はいない。

 

あらゆる痛みを

限界を

超えるまで

受け続けた。

 

ずっと

ずっと

誰よりも

ずっと。

 

絶望もしたし、

諦めもしたし、

自らを

殺そうとも

した。

 

龍は

苦悩と共に

あった。

 

自分の

苦悩。

 

そして、

自分以外の

人達の

苦悩。

 

すべてを

味わった。

 

自分だけの

苦悩であれば、

どれだけ

楽だったろうか。

 

他のみんなの

苦悩まで

感じてしまう

その辛さ。

 

見えなくても

よいものまで

見えてしまう

その辛さ。

 

どれだけ

自分自身を

呪ったことだろう。

 

そういった

あらゆるものを

龍は

すべて

引き受けた。

 

本当は

引き受けたという

よりも、単に

諦めただけなのだが、

本当に

諦めたら、

気がついたら

すべてを

引き受けていた。

 

そうしたら

同時に

すべてを

手放していた。

 

すべてを

手放したら、

信じられないことに

すべてが

輝き出した。

 

手放すとは

見捨てることだと

ずっと

思い込んで

いたのだが、

そうでは

なかった。

 

手放すことで

すべては

生きるのだ。

 

活きるのだ。

 

本当に

手放して

初めて

それがわかった。

 

わかった途端に、

気がついたら、

垂直上昇を

始めていた。

 

それまでは

龍なんかでは

なかったのだが、

 

気がついたら

白い龍に

なっていた。

 

そんな自分の

姿に

自分で驚き

ながらも、

 

龍は

天を

垂直に

昇っていく。

 

恐らく

この先には

一つの

「臨界」

があるのだろう。

 

そして

さらにその先

には、

 

新たな世界

待っているのだろう。

 

つづく