「人の味」というテーマで
書かせていただいています。
人はどうすれば「本来の味」を出せるか?
「本来の味」を出すことで、何が起こるか?
そのようなことをご紹介するために、
ある中小企業幹部の平井さん(仮名)の例を
出させていただきました。
平井さんについてのお話はさらに続くのですが、
ここでどうしても、私自身のことを
書かねばなりません。
実は、以前の私も
平井さんとまったく同じ状態でした。
いえ、
平井さんなんて可愛らしいもの。
私はさらにさらに酷い状態に陥っていました。
だから私は平井さんの状態や、
もしくは、平井さんと同じような傾向にある人達の苦しみが
よくわかります。
そしてその苦しみから抜け出ることが
いかに大変で、しかし、いかに素晴らしいことかも
よくわかります。
私は今のこのお仕事を21年続けておりますが、
最初の6年は、尊敬する師匠のもとで修行をしておりました。
私にとっての師匠が、平井さんにとっての社長です。
私は師匠に取り憑かれながら
生きていました。
もちろんそれは、私の自業自得です。
師匠は経営者育成塾を運営していました。
私は師匠の後継者として、
経営塾の「先生」という立場となり、さらに
師匠の会社の雇われ社長もしました。
私は師匠そのものになろうと努力をし尽くしました。
どんな状態、どんな状況にあろうとも、
師匠と同じ判断、師匠と同じ決断、師匠と同じ言動
のできる自分を目指し、
恐らく、ほぼそれは達成できました。
と同時に私の心と体は限界を迎えました。
今でもありありと思い出します。
私の後ろには師匠が常にべったりと取り憑いていました。
もちろん「イメージ」です。
一人でいる時も、いつ何時も、24時間、
師匠がべったり背中に張り付いてしました。
私は、私を殺すこと、私を存在させないことに
私の生きるエネルギーのすべてを注いでいました。
しかも私はその時、
充実感を覚えていました。
これが私の使命であり、私の人生であると
信じ切っていました。
で、心と体がボロボロになりました。
心と体だけならまだしも、
当時様々なことが必然的に重なり合い、
私は仕事も家庭も、人生のすべてがボロボロになり
結果的にすべてを捨てることになりました。
恐らく、私は極度の鬱状態に入っていたと
今から振り返れば思います。
私は何度も死のうと思いました。
しかしその勇気も出ない。
するとそれからさらに苦しいことが立て続けに起こり、
それがきっかけで、私は「狂おう」と思い当たりました。
イメージで言いますと、
私の心の中に一つのライン(境界線)が見えたのです。
そのラインの向こうに行けば、
私は狂うことができる
とわかりました。
そのラインの向こうに行けば、
私の人生はその時点で終わるだろうな、と
わかりました。
恐らく、多くの人の迷惑もかけるだろう。
それもわかってはいたのですが、
もう私は逃げたくてしょうがありませんでした。
人生からも現実からも
逃げることばかりを考えていました。
死ぬ勇気がないのなら、
狂ってしまえばいい。
しかもそれは簡単。
あのラインの向こうに行けばいい。
私はある時、意を決して、そのラインを越えようと
しました。
するとその瞬間に、
私は後ろから何者かによって羽交い締めに
されました。(イメージです。)
ラインの一歩手前までは来れるのですが、
どうしても最後の一歩を踏み出せない。
そんなことが
何度も続きました。
しかしある日、もうどうしても耐えることのできない
出来事がありました。
私は本当にもう意を決して
そのラインを越えようとしました。
エイッとばかりに目を瞑り、そのラインを
飛び越えました。
と、その瞬間、
これまでとはまた違った凄い力で
私は後ろに引きずり倒されたのです。
(イメージです。)
私は思わず心の中で叫んでいました。
「誰だ! 私の邪魔をするのは!」
そして、その時初めて
後ろを振り返ったのです。
振り返った私の目に飛び込んできたもの。
それは、燦々と輝く太陽と青空のもとに
無限大に広がる「海」でした。
その海は、太陽の光を受けて、
ダイヤモンドのように七色の光を放ちながら
輝いていました。
その輝きが延々と広がっていました。
それを私は空から
見降ろしていたのです。
その「海」を見た瞬間、
それまで私の心を占めていた、あらゆる苦しみが、
ザザーッと一瞬にして流れ出て、
きれいさっぱりなくなってしまったのです。
私はしばらく呆然とその「海」を
眺めていました。
すると今度は、
大量の涙が溢れました。
涙を流しながら、私の頭はどんどんクリアになり、
「すべてのこと」が理解できました。
つまり、
自分がいったい何をこれまでしてきたのか?
自分は、何を引き起こしていたのか?
自分が今、本当にすべきことは何か?
本当にしたいことは何なのか?
それらの答えが、一瞬にして
すべてわかったのです。
答えといっても、それは言葉では
ありませんでした。
しかし、すべてがわかったのです。
私は、立ち上がりました。
さっきまでのモヤモヤが嘘のようです。
「こんなことをしている場合ではない」
私は一人、そう呟いていました。
人生を走らせなければならない。
そのために私は師匠のもとを飛び出したのだ。
そんな当たり前のことを
なぜ私はわからなかったのか。
私には人生でしようと決めていることがある。
それを一刻も早く始めなければ。
私の中からフツフツとエネルギーが
溢れてきました。
そのエネルギーによって私は
どんどんニュートラル(自然体)になりました。
ガンガン前に進もう、というエネルギーとは
異質のものでした。
ただ、すべてが満たされるエネルギー。
ただ、ここにいることだけで、
自分でいられることだけで、
すべてが満たされるエネルギー。
そして、私の目にはずっと「海」が
見え続けていました。
私はある意味、驚嘆していました。
私の心の中には、こんなにも大きく、広く、深く、
そして揺るがないものがあるのだ、と。
どんな状況でも揺るがないもの。
いえ、
揺るがない、という表現自体が薄っぺらです。
揺らぐとか揺るがないとか、そういった次元を超えた
ただただそこに在り続ける自分自身。
こういったものが
これだけ酷い自分という人間の中にもある。
ということは、
この「海」と同じものが、
すべての人達の心の中にあるのではないか。
そう確信しました。
そして、私はすべての人達の中にある「海」を
その本人が見つけ、
その「海」を常に感じながら生きるための
サポートをする。
それが私のすることである、と
今度は明確に言葉として認識しました。
これが、私のコーチとしての
本当のスタートとなりました。
私は、その「海」のことを後に、
『真本音』
と名付けることにしました。
すべての人の心の中心に
確かに存在する真本音。
それを掘り起こし、
真本音に基づいて生きるサポートをする。
その時から15年。
私はこれをずっと毎日、やり続けています。
平井さんへのコーチングも、
まったく同様。
私は平井さんの真本音を見つけるための
コーチングを始めました。
人は、自らの真本音をもとに生きることで、
本来の味を醸し出すことが
できるようになるからです。
つづく