「ところで弓江さん。
日下部さんは、何かから逃げているようにも
私は感じるのですが、
心当たりはありませんか?」
「どうしてわかるんですか?」
弓江さんはまた同じセリフを
吐きました。
「今、たけうちさんから『逃げている』という
言葉を聴いて、あぁなんかぴったりだ、
と思いました。
最近の彼は、確かに逃げている感じが
します。」
「どんな時にそれを感じますか?」
「これもちょっとしたやりとりの中で
感じることですが。
仕事の役割分担の打合せをする時などに
何となく、逃げ腰なんですよね。
木村リーダーは感じません?」
木村さんが答えます。
「確かにそうですね。
ちょっと前まで彼はもっと積極的だったと
思うんだけどなぁ。
私が指示を出せば、もちろんそれは
きっちりとやってくれるんですが、
何と言うか、・・・あっそうそう、
覇気がないんですよ。」
「それはいつ頃からですか?
最近ですか?」
「そうそう、最近ですね。
やはりプロジェクトメンバーが半分に
減らされた後からかなぁ・・・。」
「と言うことは、彼は、
メンバーが半分になってから、
何となく逃げ腰になり、しかも
助けを求めているような雰囲気になった、
と・・・。」
「あからさまに彼の態度が変わった
と言うのではありません。
ほんのちょっとした感覚に過ぎないですが、
そのような変化は確かにありますね。
どうしたんだろう? 彼は。」
ここでも私は、
日下部さんの変化には、
プロジェクトのメンバーが半分に減ってしまった
ということ以外にも原因があるように
直観しました。
いずれにしても、
日下部さんの「実在」からは
淀みを感じます。
するとここで突然、
弓江さんが呟きました。
「たけうちさん、
日下部の真本音は何でしょうか?」
私は内心、
おっ!、と思いました。
「どうしたのですか?」
「いえ、ふと気になったんです。
彼は今、自分の真本音を大切に
できているんだろうか?って。」
実は、どうやら日下部さんは
最近になって、真本音度合いが
著しく落ちているのではないか?ということを
私も感じたのです。
私がそう感じたのとほぼ同時の、
弓江さんのその一言でした。
どうやら弓江さんも
日下部さんの「実在」を感じ取り始めている
ようです。
もっとも、弓江さん本人に
その自覚はないでしょうが。
そうなると、このやり取りは
さらに一歩深めることができます。
私はさらに一歩深い問いを
弓江さんに投げてみました。
「弓江さん、
日下部さんの人生のテーマは
何だと思います?
彼は、どんなテーマに向かって
生きていくことが、
彼自身の喜びであり、真の成長に
つながるでしょうか?」
この唐突な問いに、
弓江さんは目を白黒させました。
つづく