風の丘にて

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私は

丘の上に

立っている。

 

そこからは

街が見渡せた。

 

田舎ではない。

 

かと言って

都会でもない。

 

程良い大きさの

街だ。

 

街の向こうには

海が見える。

 

穏やかな

海だ。

 

空は

晴れ渡り、

そろそろ夕暮れ時に

差し掛かろうとしている。

 

そよ風に

吹かれながら、

私はその世界を

感じ取っていた。

 

街にはいったい

どれだけの

人がいるのだろう。

 

どれだけの

人生が

あるのだろう。

 

ふと私は

後ろから

肩を叩かれた。

 

振り返らなくとも

それが誰かは

わかっていた。

 

私がよく知っている

人だ。

 

「どうですか、

ここからの風景は?」

 

「うん、いいね。

様々な人の様々な

想いが、

伝わってくるよ。」

 

「降りる気に

なりますか?」

 

「もちろん。

早くあの中に入り込んで

みたいね。」

 

「いつ行きますか?」

 

「まぁ、今すぐかな。」

 

私は立ち上がり、

伸びをした。

 

振り返ると

そこに笑顔が

あった。

 

「私と一緒に

来る?」

 

「いえ、今回は

ここから眺めています。」

 

じゃあ、と

私は片手を挙げ、

その人に

別れを告げた。

 

しばしの

別れだ。

 

恐らくすぐに

また会えるだろう。

 

・・・・・・

 

思った通り、

その街は面白かった。

 

街にドップリと

浸かった私は

丘の上に戻った。

 

その人は

まだそこにいた。

 

「やあ。」

 

「おかえりなさい。

どうでした?」

 

「やはりここは

面白いな。

君も行くか?」

 

「いえ、

ここから見ているだけで

お腹いっぱいになりましたよ。

グワッと次元が高まるのが

よくわかりましたよ。

あんな急激な高まりは

珍しいですね。」

 

「それがこの街の

もともとの力だよ。

いやぁ、まぁでも、

大変は大変だったな。」

 

そう言いながらも

その街特有のそよ風に

吹かれながら、

私は心地良い疲れに

充実感を覚えていた。

 

「こういう疲れ方だったら

大歓迎だよ。」

 

「どうします?

まだしばらくこの街に

いますか?」

 

「いや。

もうここは大丈夫だろう。

名残惜しいが

次に行こうかな。」

 

「そうですか。

次の街では、

私が降りることにしましょう。」

 

「なぁ。」

 

「はい?」

 

「しばらく、別々に

旅をしてみないか?」

 

「別々に?」

 

「うん。

君ももう一人で

大丈夫だろ?」

 

「はい。そうですね。

お〜、やっとそう言って

くださるんですね。

嬉しいな。」

 

「そう言うと思ったよ。

君はどっちの道を

行きたい?」

 

「じゃあ私はこちらの

道を行きましょう。」

 

「では私は

反対にあっちを行くよ。」

 

「次はいつ

あなたに会えますかね?」

 

「どうだろうね。

まぁでも、きっと

最も嬉しいタイミングで

会えるだろ。」

 

「そうですね。

では・・・。」

 

「うん、じゃあね。」

 

私は彼の

後ろ姿をしばらく

見送った上で、

踵を返した。

 

永遠に続くと

思っていた旅も、

そろそろ

終わりの予感がした。

 

つづく

 

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