天性

本来の個性とは別のものを、自分であると思い込む

どうも前芝さんは、側から見ていても

人生のテーマがわからなくなってしまうくらいに

真本音度合いが低まっているようです。

 

「前芝さんの本来の個性、

天性の個性、

先天的な個性

は何だと思いますか?」

(→前回記事)

 

「先天的な個性ですか・・・。

ここまで考えていると、

彼については何が何だか

わからなくなってきましたね。

私が個性だと思っていたものも、

とても表面的なものだと

感じてしまいます。」

・・・と、弓江さん。

 

「ちなみに、

その表面的な個性というのは

どのようなものですか?」

 

「はい、

先ほど申したのと同じになってしまいますが、

素直さとか、明るさとか、

ムードメイカーの力とか。」

 

「でも、どうもそれは今となっては

本質的な個性ではないということですね?」

 

「そうですねぇ。

彼の本当の個性は何だろう?・・・」

 

ここで木村さんが

口を開きました。

 

「実はですね、

ちょっと私は彼に関しては

感じていることがありまして・・・。」

 

「どのようなことですか?」

 

「はい、今ふと思ったんです。

今の今まで明確に気づいていたことでは

ないのですが、今、

あっそっか、とちょっと思ったことがあります。」

 

「ほう。」

 

「実は私は、

彼は笑っている時よりも、

真剣な表情をしている時の方が、

魅力的ではないか、と。」

 

「おぉ、なるほど!」

 

「本当に時たまですが、

ハッとするくらいの魅力的な顔をする時が

あるんです。

もちろんその逆に、

暗さの漂う表情をする時もあります。

そのギャップが激しいですね。」

 

「彼はどんな瞬間に、

その真剣で魅力的な表情を見せるか、

わかります?」

 

「う〜ん、どんな時でしょう・・・。」

 

「一番最近で、その表情を見たのは

いつか思い出せます?」

 

木村さんはしばらく

じっと考えていました。

 

「・・・、あぁそうか。思い出しました。

先日、前芝と一緒にあるお客様と

打合せをしていたのです。

その時に、お客様が前芝のことを

頼りにしている、というようなことを

おっしゃったんです。

その言葉を受けた瞬間の彼の表情が

とても良かったのです。」

 

私はこの時、

前芝さんの「実在」に意識を向けながら、

木村さんのお話を聴いていました。

 

すると木村さんのその言葉の直後に

前芝さんの先天的な個性が

直観的に、彼の「実在」から伝わってきました。

 

「あぁ、わかりました。

彼の先天的な個性が!」

 

「ホントですか!」

 

「なるほどぉ。

これはなかなか・・・。」

 

「何ですか? 彼の個性は?」

弓江さんはとても興味深げな表情です。

 

「開拓者、です。」

 

「開拓者!?」

 

「はい。

道なきところに道を創ろうとするのが、

彼の本当の個性であり、強みです。

恐らく、これは間違いありません。」

 

「へぇ・・・、そうなんですか。

まったく、今の彼とは真逆ですね。」

 

「はい。

先ほどわかった彼の人生のテーマである

“純粋に人をリードする”

というのも、この個性に基づいている

ものだと思います。」

 

「そうかぁ・・・。」

と木村さんは深い溜息をつきました。

 

「いやぁ・・・。

彼自身もそんな個性が自分にあるとは

思ってもいないと思いますが、

私もまったく気づいていませんでした。

でも、今言われると、一方では

確かに!と思えるから不思議です。」

 

「私も、今言われて、

まったく違和感がありません。

やはり何となくわかっていたんですね、

私達も。」

 

「しかし、ついさっきまで私は前芝の個性を

リーダーとは真逆なものだと

思っていましたら、その真逆なものを

育てようと思い続けていました。

本来の彼の個性ではない部分を、

周りが育てようとしていた、ということですね。

こういったことはよくあることなのですか?」

 

「はい、とても多いです。

本来その人が持っている個性とは

まったく別のものを、

本人も周りも育て続けるケースですね。

残念ながら、企業ではとても多いです。

で、その別のものを

自分の個性だ、と誤解しながら生きるのです。」

 

つづく

 

本当の成長は、必ず結果に結びつく

自分自身の真本音に素直に生きることにより、

人は心に「自由」を感じるようになります。

 

それにより、自然に「自分らしさ」が

滲み出るようになります。

 

それにより、その人独自の「生まれ持った味」や

「先天的な魅力」や「天性の強み」が

本人の知らないところで発揮されるようになります。

 

本当に面白いことなのですが、

その人にとっての、それらの「天然の力」が

伸びている時は、

あまりに自然過ぎて、本人が気がつかないのです。

 

周りから見れば、明らかにその人は変化しているのに、

当の本人がまったく気づかないのです。

 

それはまるで、

子供が自分の身長が日々伸びていることに

気づかないのと同じです。

 

「大きくなったねぇ」と親は感嘆するのですが、

当の本人は、そんなことは知ったこっちゃない、

という感じです。

 

私はよく、それでいいかな、と

思います。

 

本人が意識していないのに勝手に

醸し出される魅力こそが、

本当の魅力ではないか、と。

だから、あえてそれをフィードバックしないままで

おいた方がいいかな、と。

 

私の経験則ですと、

6割くらいの人が、そのパターンです。

本人には何もお伝えせずに放っておくのです。

その方が、その「天然の力」はますます伸びていきます。

 

ところが、4割くらいは

どこかのタイミングでそれをフィードバックした方が

よい、という人がいます。

 

木村さんも、その部類でした。

(→前回記事)

 

ただしその場合、フィードバックのタイミングが

大切です。

 

ただやみくもに、

「あなたは、こういった力が出るようになりましたよ」

と伝えても、本人が納得しない場合があります。

実感がないからです。

 

実感を得るために最も良いタイミングは、

その人の「天然の力」によって

わかりやすい現実(結果)が引き起こされた瞬間

です。

 

その瞬間にフィードバックすれば、

本人も実感を持って納得できます。

 

私は、木村さんにとってのその「現実」を

待ちました。

それは、恐らくすぐに現れるだろう、と思ったからです。

 

そして実際にそうなりました。

 

平井チームが、ある新規事業を

立ち上げることになりました。

 

そのためのプロジェクトチームの発足が

計画されたのですが、

そのリーダーとして、木村さんが選出されたのです。

 

これは、平井さんからの指名でした。

 

面白かったです。

 

その指名の直後に、木村さんのコーチングが

ありました。

 

彼は悩んでいたのです。

 

「たけうちさん、

実は、新規事業を行なうことになったのですが、

そのリーダーに私が選ばれました。

平井からの指名なのですが、

私なんかでよいのでしょうか?」

 

私は笑いました。

 

「あれだけ自信満々だった木村さんが

何を言われるのです。笑」

 

「いやぁ、自信満々と言っても、それは

自己保身のために無理にそうしていただけで。

あれは本物の自信ではないですよ。

たけうちさんが一番よくわかってるじゃないですか。」

 

「あっははは。

木村さん、本当に謙虚になりましたよねぇ。

謙虚になり過ぎじゃなですか?」

 

「いやいや、茶化さないでください。

ホントに、なんで私なんかが選ばれたのかわからないですよ。

私は、平井に取り消してもらおうと直談判しようと

思ってます。」

 

「何言ってるんですか。

どのようにして木村さんが選ばれたか

聴いていませんか?」

 

「いや何も。

平井が突然私を指名しました。」

 

実は平井さんは、木村さんが真本音度合いを上げ、

彼の「天然の力」が発揮されるのを見て、

本当に心の底から、「リーダーは彼しかいない」と

判断されたのです。

 

まずはそれを私に相談されました。

私も、一押し、でした。

 

さらに平井さんは、平井チームのメンバー全員の

意見を聴いたのです。

「新規事業チームのリーダーを木村にするのは

どう思う?」と。

 

すると全メンバーが、

「新しいことをするなら、木村さんしかいないでしょ」

というような反応だったそうです。

 

平井さんはそれを聴いて、

感動のあまり、涙が出そうになったそうです。

 

木村さんは、

自分がどのような「天然の力」を出しているのか

まったく気づいていなかったのです。

 

木村さんの「天然の力」とは

『創造力』

でした。

つまりは、新たな何かを生み出す力。

 

しかしそれは、

木村さん自身の発想によって生み出されるものでは

ありませんでした。

 

木村さんと共にいるメンバー達から

発想されるもの。

 

だから木村さんは純粋に、

「みんななんて、凄いんだ」

と思っていました。

ですからコーチングの場では、

「最近、みんなの成長が凄いんですよ。

本当に私は、追い抜かれそうです」

と木村さんは言われていました。

 

しかし、そのみんなの「凄さ」は

その場に木村さんがいるからこそのもの

だったのです。

 

つづく