新規事業プロジェクトメンバー一人一人について
私は、木村さんと弓江さんと
語り合っています。
まずは、日下部さんについて
充分な語り合いができたと、
私達の中で、完了感が生まれました。
「たけうちさん、
次は、前芝(まえしば)について
考えたいのですが。」
「じゃあそうしましょう。
どんな方ですか?」
「まだ若いです。25歳の男性社員です。
しかし私は、彼がどう頑張るか?で
新規事業プロジェクトだけでなく、
全社に与える影響が大きい気がしています。」
「ということは、弓江さんからしてみれば、
彼こそが、要となる社員だと思うんですね?」
「そうです。」
「どんなところで、
そう思われるのですか?」
「彼はとにかく、素直なんです。」
「へぇ。」
「若い、ということもあるでしょうが。
でも、根っからの素直さがあるように
思うんです。」
「なるほど。
具体的にはこれまで、どんな場面やどんな瞬間に、
彼の素直さを感じましたか?」
「例えば彼は、お客様からの受けが
とても良いのです。
みんなが彼のファンになります。
彼の力になりたい、と思うようです。」
「おぉ、それは凄いですね。
彼のどんな振る舞いが、そうさせていると
思いますか?」
「たけうちさんの言葉を借りて言えば、
彼は、向き合う、ということが
できるのだと思います。
いつも堂々とお客様と向き合って、
しかも、相手の話を親身になって聴いて、
しかも、言われた期待には必ず答えようとします。
自分が言ったことも、必ず実行します。」
「それは、なかなか期待できる人ですね。」
「ただ・・・。」
「ただ?」
「はい、ただ・・・、私はなんかちょっと彼が
無理をしているようにも思うんです。」
「どんな風に?」
「ちょっと、従順過ぎると言いますか・・・。」
この辺りで私は、
前芝さんの「実在」を感じ始めました。
まるで、本人が目の前にいるかのような、
感覚があります。
私は、その「実在」に意識を
向けました。
そして私も感じました。
あぁ彼は、相当に無理をしている、と。
「なるほど。
私も直観的に、彼はかなり無理をしている
気がしますね。」
「はい。
彼の素直さは、本当に素晴らしいと
思うのですが、実はかなりストレスを
得ているのではないかと、
少し心配になります。
いつも前向きだし、笑顔も絶やさないし、
ムードメイカーなんですけどね。」
「では、
直観的にお答えいただきたいのですが。」
「はい。」
「彼の真本音と、今の行動は、
ズレがありますか?」
一瞬、弓江さんは目を閉じました。
そして明確に答えました。
「ズレズレです。
・・・そうか。
ズレズレなんだ。
あれだけ頑張ってるのに・・・。」
「木村さんは、どう思われます?」
「そうですね。
彼はある意味、とても器用なんだと
思います。
時々、世渡りが上手いなぁ、若いくせに、
と思うことがあります。
でも、かと言って、不快に思うことは
ほとんどないのですよ。
彼の素直さの方が強調されている
気がします。」
恐らく、前芝さんという人は、
軽薄な人ではないのでしょう。
一つ一つの物事に、心を込めて
取り組むことは間違いないと思います。
しかしそこには、
魂が入っていない・・・。
心は込められているのに、
魂は、入っていないのです。
実は、こういったタイプの人を
私は随分と多く見てきました。
実は、こういった人ほど、
若いうちはまだ良いですが、
年齢を重ねるに従い、
かなりの強烈なストレスに
苛まれるようになるのです。
つづく
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