最初に木村さんと1対1で面談した日から
約2週間後に、私達は再びお会いしました。
「最近の木村さんのご様子を教えていただけますか?」
と私が問うと、
「なんか、調子悪いんですよ」
とのお返事。
「理由はわからないのですが、
妙に怒りっぽいですし、モヤモヤするんですよ。
夜も寝つきが悪いですし。」
これは予想されたお返事でした。
実は、よくあることなのです。
私は前回のコーチングにおいて、
彼にかなりダイレクトなご質問を投げました。
それは、実は
彼の真本音に刺激を入れるための質問でした。
真本音に刺激が入ると、
自分の真本音を抑えながら生きている人は
心の調子を崩します。
しかしそれは決して悪いことではなく、
真本音度合いの高まりを告げる好転反応
のようなものなのです。
彼にはすでに好転反応が始まっていたのです。
しかしこの時点では、そういったことは
彼には伝えません。
「木村さんの中に、何か疑問は
湧いてきていませんか?」
「疑問?」
「はい。答えを知りたいこと、とか
ありませんか?」
「う〜ん、・・・。」
しばらく彼は黙っていましたが、ふと顔を上げ、
言われました。
「まったく関係ないことかもしれませんが、
最近、新しい趣味を始めまして。」
「へぇ、どんな趣味ですか?」
「料理です。」
「料理?」
「はい、これまでまったく興味なかったんですが、
ふと、自分で工夫した料理を作りたくなって、
この前の週末に、ネットで調べながらも我流で
カレーを作ったんですよ。
予想以上に、妻が喜んでくれまして、嬉しかったですね。」
私の問いに対して、まったく関係のない答え。
しかし、これもよくあることなのです。
クライアントさんが活性化している証拠です。
この木村さんの答えは、ここまでの流れと関係ないように
思えますが、これは彼の真本音度合いの高まりを告げる
一つの現象です。
彼は、「本来の自己表現」をしたがっているのです。
それを、「料理」という手段で始めました。
「木村さんは、どんな料理を作れたら最高ですか?」
「う〜ん、そうですねぇ。
やはり妻が喜んでくれると最高に嬉しいかな。
先日は久しぶりに恋人気分に戻ったような食事が
できましたし。」
「奥さんとは、木村さんにとってどんな存在ですか?」
「えっ? いやそんな風に問われると照れますが、
私にとってはなくてはならない存在です。
結構、妻とは考え方とか異なる部分が多いですが、
肝心なところでは一緒に喜べると言いますか。
そうそう、一緒に喜び合いたい人ですね。
照れますね。笑」
私はこの答えを聴いたとき、
あぁこの人は本当に人を大事にしたい人なんだ、
と思いました。
「木村さん、ひょっとして職場仲間の人達に対しても、
同じような想いを持っていらっしゃいます?」
「えっ、・・・あぁ、まぁ、そうですね。
妻に対してほどではないですが、一緒に喜び合えたら
嬉しいですね。」
「そのために、いつもどんなことを大切に
されてるんですか?」
「やはり、彼らの求めることに応えることかな。
自分がこうしたい、ということよりも、
彼らの期待に応えたい、というのが強いですね。」
どうやら木村さんが職場では「自分を演じる」理由は
ここにあるようです。
「例えば今、皆さんの期待に100応えられていると
しますね。
本当は木村さんはどれだけ応えたいですか?
100である今で満足ですか?」
「いやいや、全然満足ではないですよ。
500くらいは応えられる自分でありたいですね。」
「そのためには、どうすればよいと思われますか?」
「いやぁ、それがわからないのですよ。」
「そこは、私がアドバイスさせていただいても
よろしいですか?」
「はい、もちろんお願いします。」
「木村さんは、なぜ最初の料理をカレーに
されたんですか?」
「えっ? 私が好きだからですよ。」
「で、奥様にも喜んでいただいたんですよね?」
「はい。」
「それですよ。」
「どういうことですか?」
「周りの人達と一緒に喜び合えるのに大切なのは、
自分の喜び=周りの喜び
を見つけた時です。
周りのためだけに何とかしよう、としていても
それは難しいです。
自己犠牲していても、周りの人達は本当には
喜びませんよね。」
「それはそうですね。
誰かが犠牲になっていては、逆に誰も喜べませんよね。」
「でも、木村さんは、
自己犠牲しながら、仕事をしているのではありませんか?」
ここで木村さんはフリーズしました。
ここで皆さんに、きちんとお伝えしなければなりません。
ここまでの流れで大切なのは、
私が意図的に流れを読んでこのようなやりとりをしている
わけではない、ということなのです。
私には何の意図もありませんでした。
私が行なっていたのは、
ただただ、木村さんの真本音に意識を向け続け、
自然に発想される問いやメッセージを
素直に口に出す、ということだけです。
つまりは、相手に完全に委ねている状態です。
すると、相手の真本音が活性化します。
そして相手の真本音がすべてを導いてくれます。
木村さんの真本音は、
自分を開放したがっていました。
その真本音の意志に私はただ乗っかっただけです。
私には何の意図もなく、
しかし目の前の木村さんはフリーズし、
言葉を失っていました。
一度、フリーズすればもう大丈夫です。
ここから、木村さんの真本音が
ニョキニョキ出始めます。
つづく