私達は家族になった

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12歳の夏。

 

私はアメリカのオレゴン州

の片田舎

にいた。

 

私と同い年の

少年と、

2歳下の弟がいた。

 

私達は昨日

出会ったばかり。

 

もちろん私は

片言の英語すら

できない。

 

私達は

ある病院の待合室に

3人で待たされていた。

 

なぜか待合室には

電気もついておらず、

そして

私達3人の他には

誰もいなかった。

 

広い待合室なので

とてもガランと

していた。

 

二人の兄弟の前で

私はカチコチに

固まっていた。

 

相手は

外国人。

 

というか、

私こそが外国人

だ。

 

二人も緊張

していたのだろう。

 

まるで私を

無視するかのように、

兄弟で

じゃれ合っていた。

 

私はポツンと

一人。

 

心細さと

孤独感。

 

しかし私は

これから、

この二人と1ヶ月の

時間を過ごさねば

ならないのだ。

 

・・・・・・

 

ふと、

私は自分の左手に

目を留めた。

 

そこには、

私の手からすれば

かなり巨大な

腕時計があった。

 

私が半年ほど

親に対して

説得に説得を重ねて

ようやく買ってもらった

「超」が6つくらいつく

大好きな腕時計。

 

ふと、

この時計は

今のために

買ったのではないか、

と思った。

 

兄弟がじゃれ合っている

その隣で、

私は密かに

時計を操作した。

 

1分後にセット。

 

私は

その時を待った。

 

そして

1分後。

 

私の腕時計は

アラーム音を

鳴らした。

 

誰もいない

暗い待合室に、

びっくりするほど

それは

大きく鳴り響いた。

 

あれ?

これ、こんなにも

すごい音だっけ?

 

と思っていると、

私の目の前に

ビックリ仰天した

二つの顔があった。

 

彼らは、

英語で何かを

まくし立てた。

 

そして

私の左手を取った。

 

私は

私の自慢の

腕時計を見せながら、

 

「アラーム。」

 

とだけ言った。

 

その時私が

使える唯一の

英語だった。

 

恐らく日本語に

すると、

 

「すげーーっ!!

なんだこれ!!

お前、すげーもの

持ってんな!!」

 

ということだったと

思う。

 

彼らは凄い形相で

私に何かを

わめいた。

 

1980年のことだ。

 

アラーム付きの

腕時計は、

彼らにしてみれば

驚嘆だったようだ。

 

私は、

ニンマリと

笑った。

 

そしたら、

彼らも

ニンマリと

笑った。

 

あぁ、

その時だった。

 

私に

人生で経験したことの

ない

感覚が

訪れた。

 

・・・・・・

 

私と彼らの間に

あった

距離、

壁、

境界、

環境の違い、

文化の違い、

言葉の違い、

人生の違い、

・・・要するに、

断絶とも分離とも

言える

あらゆるものが、

その一瞬のうちに

消散した。

 

私達はまるで

生まれてからずっと

兄弟だったような

感覚に包まれた。

 

彼らは

どうだったかは

わからないが、

少なくとも

私はそうなった。

 

その瞬間から

私達は紛れもなく、

「家族」

になった。

 

ちょうどその時、

見舞いを終えた

彼らの両親が

待合室に

もどって来た。

 

弟の方が、

夢中になって

私の腕時計のことを

両親に伝えた。

 

両親は

私の腕時計を

見た。

 

もう一度、

アラームを

鳴らしてみた。

 

みんなで

笑った。

 

私達は

「家族」だった。

 

・・・・・・

 

あれから約

40年経った今、

 

そうか、

あの瞬間に私は

人生の道を

決めたのかもしれない、

 

と思う。

 

私が今の

お仕事をさせて

いただいているのは、

あの瞬間と、

彼らの

おかげだな。

 

つづく

 

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