人間の魅力はどこで決まるか?

 

この問いには様々な答えがあると思いますが、

重要な答えの一つとして、私は

 

「その人本来の味を出せているかどうか?」

 

であると、企業現場においていつもつくづく

感じています。

 

特にリーダーという役割を果たす人が

・その人本来の味を出しながらリーダーシップを発揮するのと

・その人本来の味を消しながらリーダーシップを発揮するのでは

同じ人がリーダーをやっても雲泥の差が生まれます。

 

その差とは、

人がそのリーダーに対して抱く信頼度の差だけでなく

業務上の成果の差としても如実に現れます。

 

チームのメンバーがイキイキと仕事をし、かつ

チームとしての輝かしい成果を上げている場合、

まず間違いなく、そこには

「自分の本来の味を醸し出している魅力的なリーダー」

が存在します。

 

さて。

 

そういった意味で、

前回から例に出させていただいている平井さんは

最悪の状態だったと言ってよいでしょう。

(→前回記事)

 

平井さんは、本来の「味」を出しているどころか、

平井さんという「存在」そのものを私は

感じ取ることができませんでした。

 

なぜなら、彼の心の中心には、

「社長から評価を得たい」

という気持ちがドップリと根付いていたからです。

 

彼の言動のすべては、

そこから始まっていました。

 

彼は、決断力がありました。

彼は、堂々としていました。

彼は、とても言葉が巧みでした。

 

しかし、彼の部下は皆、疲弊していました。

 

そして本人は気づいていませんでしたが、

平井さん自身も、疲弊の極みにありました。

 

しかし彼のコーチングの初期段階では、

取り付く島がありませんでした。

 

私がどのような質問をしても、

彼の口から出てくる答えは、私の胸には

響きませんでした。

つまりそういう時は、

その人の本心の言葉ではない、ということです。

 

ですので、私は彼の本心を理解したいと

思いました。

 

ところが、彼は肝心なところに来ると、

空気感でもって、私を拒絶しました。

 

タチが悪いのは、

表面上の彼は穏やかだったことです。

しかし、「これ以上は私に触らないでください!」と

悲鳴にも似た拒絶が

空気感としてこちらに伝わって来るのです。

 

これにはまいりました。

 

彼の口癖は、

「そういうものですから。」

それ以上でもそれ以下でもないので、もうこの件については

これ以上問わないでくれ、

という彼の拒絶の意思表示でもありました。

 

ですので、コーチングの初期では

随分と沈黙の多い時間となりました。

 

沈黙の最中も、彼は穏やかな表情でいました。

すべてを私は受け止めますよ、

という表情。

 

しかしそれは表面だけ。

表層の皮を一枚剥がせば、

彼は「拒絶」の権化でした。

 

彼の言う、「そういうものですから」という彼の答えは、

もともとすべて、社長が言われた言葉ばかりでした。

 

つまり彼の中では「社長がすべて」。

「社長が真実」。

「社長が原理原則」。

そして、

その原理原則は、何があっても崩れない、

というものでした。

 

これがいわゆる、「社長が取り憑いた状態」です。

 

一種の洗脳状態ですが、

これは彼自身が望んで、

自らそのような状態を創り出していました。

 

もちろん、社長にも問題はあったでしょう。

こういった状態になるまでには、

社長のコミュニケーションの取り方も

原因としては大きいとは思います。

 

しかし、基本的には彼の自業自得。

 

彼自身が望んで創り出した現実。

 

彼は自ら社長が取り憑いた状態を創り出し、

自らの人格を、ある意味、殺しました。

 

そんな彼がリーダーをするわけですから、

彼の部下の皆さんのほとんども、

多かれ少なかれ、自分らしさとか自分の本当の気持ちを

押し殺したまま仕事を続けていました。

 

私がある意味、すごいなぁ、と感心したのは、

そのような状態でも、ある一定以上の業績を

彼と彼の部下の皆さんは残していたことです。

 

これは本当に凄い。

 

しかし、それ以上に、彼らの疲弊ぶりは

尋常ではありませんでした。

いつ誰が倒れてもおかしくない状態。

しかも「そのような状態で頑張ることが格好いい」という風潮。

 

なかなかに酷い状態でした。

 

実はこの後、平井さんは劇的な改善をし、

本来の自分を取り戻していくことになるのですが、

そういった状態になった後で、部下の皆さんに当時のお話を聴くと、

皆さんはまだ健全だったことがわかりました。

つまりは、

「あの頃は最悪でした。

私は、本音の一つも口に出せませんでした。

平井さんのことが気持ち悪くてしょうがありませんでしたし、

この会社にいることが、本当は嫌で嫌でしょうがありませんでした」

と素直に思っていたのです。

 

しかしそのような状態でもある一定以上の業績を出せるということは、

彼らのもともとのパワーがとてつもなく高かった

ということでもありました。

 

逆に言えば、

そんな彼らが、本来の自分として働けたら、

さらに凄いことになる、ということです。

(実際にそうなりました。)

 

さて、このように酷い状態の平井さんでしたが、

彼が本来の自分を取り戻し、

本来の「味」を醸し出せるようになるまで、

実は半年もかかりませんでした。

 

もちろん私自身も

そんなに短期間で改善されるとは

当初は思いもよりませんでした。

 

一体何が起きたのか?

何を起こしたのか?

 

公に書けるギリギリのところまでを

思い切って書いてみようかな、と

思っています。

 

つづく