私は何もしなくてよかった

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二人の素敵な

経営者と

一緒に食事をした。

 

二人は

ハイボールを、

 

私はいつものように

ウィスキーの

ストレートを

飲みながら。

 

二人は

議論をしていた。

 

努力型と

天才型についての

議論。

 

それを中心に

話は様々な方向に

進んだ。

 

私は二人の会話を

聴きながら、

 

やっぱ

ウィスキーは

美味いよなぁ、

 

やっぱ

素敵な人達と

一緒に飲むと、

さらに美味いよなぁ、

 

と、

心の中で

呟いていた。

 

二人の意見は

なかなか

合わなかったのだが、

 

それでも

二人とも

とても楽しそう

だった。

 

時折、

引き込まれるように

自然に私は

口を開いていた。

 

たけうちさん、

真本音と反応本音の

割合は

どれくらいが一番

適切なんですか?

 

と一人が

問うと、

 

もう一人が、

 

いやいや、

真本音100%が

一番いいに

決まってるでしょ。

 

と、口を挟んだ。

 

私は何も答えず、

 

もっとお二人の会話を

聴いてたいなぁ。

 

と笑った。

 

またそういうことを

言う。

 

と、二人も

笑い、

会話はさらに

進んだ。

 

二人とも

私と同世代の

経営者。

 

もう随分長いこと、

組織のトップとして

がんばってきた。

 

ある意味、

二人は真逆の人生

を進み、

 

そして今

ここで

交わっている。

 

笑い合いながら

議論を

している。

 

いつものように

私は

「コーチ」としての

言葉を発しては

いたけれど、

 

今日の私は

「コーチ」では

なかった。

 

なぜなら、

今日の私は

まったくコーチングを

していない。

 

コーチングを

していたのは

二人だ。

 

二人は

議論という

形を取りながら、

とても美しい

コーチングを

し合っていた。

 

私はその

美しさに

見とれていた。

 

もちろん二人に

自分達が

コーチングをし合っている

なんて

自覚はない。

 

でもそれはそれは

見事な

コーチングで、

 

それを見ていた

私の真本音は

私がコーチングするのを

止めたのだ。

 

今日は私は

何もしない。

 

と、

私は決めた。

 

口は挟むし、

それらしいことは

言うのであるが、

 

今日の私は

本当に

何もしなかった。

 

ただ、

ウィスキーを

飲みながら、

 

二人のコーチングを

眺めながら、

 

その時間を

楽しんだ。

 

食事が

終わる頃になると、

二人の顔からは、

 

これまで

人生で培ってきた

一切の険しさが

 

取り除かれて

いた。

 

二人ともまるで

少年のようだった。

 

酔っ払って

いたのもあるが、

駅まで行く道すがら、

二人は

肩を組んで

笑い合っていた。

 

どう見ても

3歳と4歳の

ガキだ。

 

私は

自分の顔が

壊れるのではないかと

思えるくらいに

笑った。

 

二人のうちの

一人とは、

駅前で別れた。

 

残った一人と

私は一緒に

電車に乗った。

 

電車の中で

私は彼に

伝えた。

 

見事な

コーチングでしたね。

 

彼は

1歳の子どものように

笑った。

 

つづく

 

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