プロコーチ

どこまで寄り添うか、それがコーチングの肝です

「プロのコーチになるために、

私はまずは何をすればよいでしょうか?」

・・・という木村さんからの問いに、私は

 

「まずは、100人にコーチングをしてください。」

・・・とお答えしました。

 

「木村さん、お忙しいとは思いますが、

まずは、平日のお仕事が終わってから毎日二人ずつ、

そして土日に一日6人ずつ。

つまり、一週間に22名のコーチングを行なってください。

すると、5週間で100人できると思います。

まずはここからですね。」

と。

(→前回記事)

 

もし木村さんの「プロのコーチになりたい」という想いが

真本音から出されたものであれば、

彼は何の躊躇もなく、私のアドバイスを

受け入れたでしょう。

 

しかし残念ながら彼のその想いは

反応本音レベルです。

恐らく内心は、「そこまでのことをしなければならないのか」

と感じていたと思います。

 

でも、100人コーチングというのは

本当に特別なことでもありませんし、

私は100人コーチングして初めて、

「私、コーチとしての活動を始めました」

と言えるのではないかと思っています。

 

木村さんはしばらく黙っていましたが、

意を決したように言いました。

 

「わかりました。では、それをします。

相手は、誰でも良いのですか?」

 

「はい。

社内の人でも知り合いでも初めてお会いする人でも

誰でも良いです。

ただし、プロのコーチを目指すのであれば、

初対面の人の割合を多くした方が良いですね。」

 

その日から彼は、

100人コーチングを始めました。

 

彼の偉いところはこういうところです。

自分の真本音の想いだと思ったことは、

とにもかくにもそれを実行してみる、というところです。

 

こういう人は必ず、

何らかの気づきがありますし、

たとえそれが回り道だったとしても、

必ず「次」につながります。

 

彼は、平日は、社内の人達のコーチング、

土日は、社外の人達のコーチング、

というように分けて活動をしたようです。

 

もちろん、そのような活動をすることを

彼は、上司である平井さんに報告しました。

 

実は、彼の報告の前に、私は平井さんにこの件を

お伝えし、了承を得ていました。

これが彼の反応本音レベルの想いだということも

含めてお伝えし、

「この体験で得られることは、間違いなく

彼の新規事業プロジェクトリーダーとしての

成長につながります。

ですのでここは、ご理解をお願いします」と。

 

平井さんはニコニコしながら、

「木村がこれでどのように変化するか、

楽しみですねぇ」

と言われました。

 

こういった度量の大きな上司がいることは

本当に人の成長を左右するなぁ、と

私は感嘆しました。

 

さて、木村さんですが、

私の予想よりも少し早めに彼は

「挫折」しました。

 

2週間後のコーチングで彼はこう

言われたのです。

 

「たけうちさん、

社内の人達のコーチングは順調に進むのですが、

土日の社外の人へのコーチングが難しいです。

なかなかアポが入りませんし、

知り合いのコーチングをするのですが、

コーチングというよりも、ただの雑談になるというか。

どうしたら良いでしょうか?」

 

「どうしたら良いでしょうか?」

この問いが出た瞬間に私はいつも、

それは一つの挫折である

と思います。

 

それは、依存している人のセリフだからです。

 

真本音の想いで進んでいる人は、

決してその一言は口にしません。

 

本当に真本音でプロのコーチを目指している人であれば、

必ず自分なりの方法を自力で見つけ出します。

 

これまでの受講生さんの例で言えば、

知り合いのコーチングが難しいと感じたならば、

異業種交流会に出まくるとか、

いつも顔を合わす、近所のコンビニの店員さんに声をかけて

コーチングをさせてもらうとか、

道行く人に自ら声をかけてコーチングさせてもらう

という人すらいました。

 

真本音の想いであれば、自然にそういったことを

人はします。

しかし、反応本音レベルの想いであれば、

行き詰まるとすぐに、人に答えを求めます。

 

もちろん、とことんやってどうしてもわからなければ、

人に訊くのも良いでしょう。

大事なのは、とことんやったかどうか、です。

 

それは、空気感ですぐにわかります。

 

木村さんは安易に私に答えを訊いてきました。

 

さて。

ここでどうするか?

 

コーチとして取るべき対応は様々です。

 

私はここでまた、彼の真本音に訊きました。

口には出さずに、心の中で問いかけたのです。

 

「木村さん、

今ここで、私にどんな言葉を返してもらいたいですか?」

 

すぐさま答えが返ってきました。

心の奥底から自然に浮かび上がってくるのです。

 

「たけうちさん、申し訳ありませんが、

ここはもう少し、相談に乗ってあげてください。

私にとって本当に必要な気づきを得るためには、

もう少し、私に寄り添ってください。」

 

「わかりました。

では、寄り添うためには、

今は何を伝えればいいですか?」

 

「私に、問いをください。」

 

と同時に一つの問いが自然に浮かんできました。

 

私はそれをそのまま、現実の木村さんに

投げかけました。

 

「木村さんは、

どんな人のコーチングをされたいのですか?」

 

つづく

 

失敗と怠慢は、根本的に違います

私のクライアントさんは、比較的

不器用な人が多いです。

 

不器用というのは、私は「魅力」だと

思っています。

 

不器用な人は、

よく壁にぶつかります。

 

何度も間違いをします。

 

まっすぐに進めばよいものを、

本人はまっすぐなつもりでも、右に傾いてしまったり、

左に傾いてしまったり。

 

その都度、

ガツンガツンと、壁や障害にぶち当たります。

上手にかわせばよいものを、

まともにぶち当たり、ダメージを受けます。

 

時には、壁にぶち当たるよりも前に

勝手につまずいて転んでしまうことさえあります。

 

それでも、前に進もうとします。

 

上手く物事を進めよう、とか、

壁をいかに避けながら進もうか、とか、

転ばないようにソロリソロリと進もう、とか。

そういった

「失敗することが嫌」、「失敗することを恐れる」

という人は、どちらかと言うと

私を避ける傾向にあります。

 

私は、失敗こそが財産である、と思っています。

 

ただしその失敗は、

「本当の失敗」であることが重要です。

 

本当の失敗とは、

「これが私の真本音だ!」と自分で信じて、

その通りに、その時出せるすべての力を使って

突き進む中での「失敗」です。

 

そういった「失敗」は、その時その瞬間は

「失敗」かも知れませんが、

後から長い目で見れば、

それは、「必要なステップ」であり、

「自分の望む成果を生み出すための大切な試行錯誤」であり、

「自分の進化のためになくてはならないプロセス」です。

 

失敗を恐れて、ソロリソロリと進んでも

何も得るものはありません。

 

ソロリソロリと進むことで結果を出すことができず、

「失敗しました」と言う人がいますが、

それは「失敗」ではなく、単なる「怠慢」です。

 

正しくても間違っていてもお構いなしに、

真本音だと信じた方向に進んでみる。

・・・そういった人を私はサポートしたいですし、

そういった人こそが、

「真本音で生きる」

ということを、理屈ではなく、体得します。

 

木村さんには確かに様々な反応本音のパターンが

ありました。

でも彼の素晴らしいところは、

何度失敗しても、自分の信じた通りに進もうと

したところです。

 

何度失敗しても、

「たけうちさん、これが私の真本音だと思うのです」

と堂々と私に語り、それを行動に移したことです。

 

その「真剣さ」に私は何度も

心を打たれました。

 

そして思いました。

「とことん、この人をサポートさせていただこう」

と。

 

ですから、

「プロのコーチになりたい」と

木村さんが言われた時、

それがたとえ反応本音レベルの想いだとわかっていても、

後で、その想い自体を「否定」することになるだろうと

わかっていても、

それでも私は本気で木村さんに伝えました。

 

「木村さんがプロのコーチになるために、

私は、どんなサポートをさせていただければよろしいですか?」

(→前回記事)

 

その瞬間、私は本気でそうしようと思って

言ったのです。

 

その迫力が恐らく、

木村さんに伝わったのでしょう。

彼は、しばらく

うろたえました。

 

しかし気持ちを整え直し、

私にこう言いました。

 

「プロのコーチになるために、

私はまずは何をすればよいでしょうか?」

 

私は即座に答えました。

 

「まずは、100人にコーチングをしてください。」

 

これは、私の主催するプロコーチ養成のための

講座の受講生さんに、いつもお伝えしていることです。

 

とにかく、まずは100人をコーチングする。

それができて初めて、

プロへのスタートラインに立てる、と。

 

「木村さん、お忙しいとは思いますが、

まずは、平日のお仕事が終わってから毎日二人ずつ、

そして土日に一日6人ずつ。

つまり、一週間に22名のコーチングを行なってください。

すると、5週間で100人できると思います。

まずはここからですね。」

 

つづく

 

まったく胸に響かない想いに、どう対処する?

それは、新規事業プロジェクトが動き出し、

計画の実行段階に入った頃のことでした。

 

木村さんが突然、私に

「たけうちさん、私はプロのコーチになろうかと

思います」

と言われました。

(→前回記事)

 

私は内心、

うわぁ、そう来たかぁ、

と思いました。

 

もちろんそれは、

反応本音レベルの彼の発想です。

ですから私には、

ただの言葉遊び、言葉の上滑り、

としか感じ取れませんでした。

 

通常の私のコーチングの場合、

反応本音レベルの発想がクライアントさんから出たとしても、

特にそれに対して、こちらが「反応」することはありません。

かと言って、無視もしません。

ただ普通にその発想を受け取るだけで、

肯定も否定もしません。

 

すると、コーチングセッション中は、

普段よりも真本音度合いが高まっていますから、

そのクライアントさんの反応本音レベルの発想は

自然に、消えていきます。

途中から、どうでもよくなってくるのです。

 

そして、真本音レベルの発想に

移っていきます。

 

私はそこには何の操作もしません。

 

しかし時折、クライアントさんが

自分の発想は真本音からの発想である、と

思い込む場合があります。

 

つまりそれは、自分自身の

真本音と反応本音の区別がついていない

という状態です。

 

しかし私から見れば、

明らかに反応本音レベルの発想です。

 

そういった場合は、

そこに、かなり強烈な「反応本音のパターン」が

存在していることになります。

クライアントさんからして見れば、

自分の真本音であると思い込むくらいに強い

反応本音のパターンが

そこにある、ということです。

 

その場合は、ある意味、チャンスです。

強烈な反応本音のパターンを浮き彫りにし、

それを自ら「壊す」ことにつながるからです。

それができれば、

そのクライアントさんは、より真本音度合いを高めることが

できます。

 

木村さんの中には、

強烈な反応本音のパターンが、たくさんありました。

 

特に顕著だったのが、

自信家になった時の彼の「イケイケ」のパターン。

もう一つが、

自信を喪失した時の彼の「ウジウジ」のパターン。

 

この時は、

その「イケイケ」のパターンが出たのでした。

 

ただしそれが出たとしても、

私は基本的には、すぐに否定することはしません。

 

私は木村さんに、プロコーチになろうと思った

その理由を訊きました。

 

想像通りの答えが返って来ました。

 

「今回、私は新規事業プロジェクトをさせていただいて

強く思ったんです。

プロジェクトメンバーを主役にしたチーム創りというのが

いかに素晴らしいか、ということをです。」

 

ちなみに、

「メンバーを主役にする」

「社員を主役にする」

というのは、木村さんの尊敬する上司である平井さんの

理念の一つです。

 

「それに、たけうちさんからチームコーチングのやり方を

教わって、それをやってみて、

これは本当に素晴らしいな、と思ったんです。」

 

「どこが素晴らしいと思われたんですか?」

 

「何と言いますか、

これまでの私は自分の枠に人をはめる、ということばかりを

して来たと思います。

しかし、人を尊重して、人の発想を促して、それらを形にする、

という方が、自分の想像を超えた展開を生み出す、

ということが、身をもってわかったんです。

これこそが、本当のリーダーシップではないかと思いました。」

 

言っている言葉の一つ一つは一見、素晴らしいですし、

彼の感情も想いもそこには込められていました。

 

しかし、

まったくこちらには響いて来ません。

 

それは、反応本音レベルだからです。

 

しかし残念ながら、このレベルの想いに基づいて

動いてしまっている「人」や「組織」がいかに多いことか。

 

真本音と反応本音の区別をつけないことが

いかにその後の展開に大きな違いを生み出すか?

ということを、こういった場面で私はいつも

実感します。

 

木村さんはさらに続けました。

 

「それに私は気づいたんです。

私が伸ばすべき強みは、コーチング力ではないかと。

チームコーチングの手法を使いながら、

私は、コーチとしての自分、がいかに楽しいか、を知りました。

しかも、楽しいだけでなく、みんなが実際に発想を広げ、

主体的になり、新規事業も一気に軌道に乗ろうとしています。

私は、こういった素晴らしい展開を、自社だけでなく

他社でも起こしたい。

プロのコーチとして、いろんな企業でチームコーチングをしたい、

と思ったんです。

これって、私のビジョンではないか?と。

真本音の願いではないか?と思ったんです。」

 

私はこの時、

少し心の中で迷いました。

 

かなり、かなり、短絡的な表現で書きますと、

次の二つの選択肢による迷いでした。

 

一つは、

今この場で、きちんと「否定」するか?

もう一つは、

「少し、泳がせてみる」か?

です。

 

前者の場合、

「木村さん、残念ですが今の木村さんの言葉は、

まったく私には響いて来ませんよ。

つまりそれは反応本音レベルの発想です」

と、そのままお伝えします。

 

恐らくそれをすれば木村さんは、

すぐに自分が反応本音だったということに気づき、

恐縮するでしょう。

反省するでしょう。

 

しかし、それを今の木村さんは本当に望んでいるでしょうか?

 

私は心の中で、木村さんの真本音に向かって

語りかけました。

 

「木村さん、今、私にどうしてほしい?」

 

言葉には出していません。

心の中で、彼の真本音に向かってそう問うたのです。

 

すぐに「返答」がありました。

 

「ここは私が自分のパターンを壊すために

とても重要なチャンスです。

今すぐの否定はやめてください。

最も、良いタイミングでの否定を私は望みます」

と。

 

言葉で表現すると、

このような返答がありました。

 

と言っても、実際に木村さんがそう言われたわけでは

ありません。

 

私の心の中からその返答が

「浮かび上がって来た」のです。

 

しかしそれは、私の「イメージ」でも「解釈」でも

ありません。

 

木村さんの真本音の意思を

私はダイレクトにキャッチしただけのことです。

 

これも「真本音コミュニケーション」の一つです。

 

そしてこれも、

私にだけできる特別な能力ではなく、

本来、私達人間すべてに備わっている

コミュニケーション能力の一つです。

 

私は心の中で、

「わかりました。

では、あなたの言う通りにしますね」と

お伝えし、その上で現実の木村さんにお伝えしました。

 

「木村さん、わかりました。

では、木村さんがプロのコーチになるために、

私は、どんなサポートをさせていただければよろしいですか?」

 

つづく