平井さんにとっての社長は、

ある意味、「すべて」でした。

(→前回記事)

 

「私は、社長と出会ったその瞬間から、社長を尊敬しています。

彼の人柄も経営のやり方も、本当に尊敬に値するものです。

それは今も変わっていません。」

と平井さん。

 

しかし、

「尊敬するがあまりに、私は彼の

”寄生虫”

になりました。」

 

“寄生虫”。

 

何もそこまでご自分のことを酷く言わなくてもいいのに、

と思うのですが、

しかし、これは後の彼(本来の自分を完全に取り戻した彼)

から出た言葉です。

 

彼は、以前の自分のことを、”寄生虫”と

表現しました。

 

「私は昔から、自分が依存したい人を探し出し、

それを見つけると、まるで寄生虫のように取り付く

という人生を繰り返してきました。

最初に寄生したのが母親です。

私は、母の言いなりの自分になっていましたが、

それは私が母に寄生していたのです。

確かに母にも問題はありましたが、

これは私が自分で行なっていたことです。」

 

平井さんは、必ず自分が依存する人を見つけ、

寄生虫のようにその人の血や養分を吸い、

自分のものとし、

しかし本来の自分はどこかに捨ててしまった状態で

生きてきたのだそうです。

 

社長もその一人。

 

「私は寄生虫のように生きることこそが

最も楽な生き方だと思い込んでいたようです。

本当はそれこそが最も苦しい生き方なのに。」

 

本来の自分を取り戻してからの平井さんは

過去の自分の生き方が

ありありと見えてきて、そんな自分を

嫌悪しました。

 

しかしその「自己嫌悪の自分」すらも観察することで、

それを存在承認し、愛し、

すべてをあるがままに受け取ることができるように

なりました。

 

”寄生虫”とは、そんな平井さんが

ご自分を評して出された言葉です。

かなりキツイ言葉ですが、

それをお話しされた時の平井さんは

笑顔でした。

「まったくコイツはどうしようもないヤツで・・・」

と笑いながら、自分を指差しながら語る彼を見て、

私はつくづく、この人は凄いなぁ、と

感嘆しました。

 

話を戻します。

 

平井さんは社長に”寄生”していました。

それは完全なる依存状態でしたから、

寄生虫は、寄生している相手から捨てられることを

極度に恐れます。

 

その恐れを振り切りながら社長と向き合う勇気が

最初は平井さんには出ませんでした。

 

彼は正直に私におっしゃいました。

「部下のことは、ありありと観察することができますし、

しっかりと向き合うことも抵抗はありません。

でも、社長と向き合うのは怖いです。

自分の意見をはっきり伝えることで、

私は社長からの評価を失うのではないか、

社長から捨てられるのではないか、

と思ってしまいます。」

 

しかしそういった恐れを抱く自分自身をも

平井さんは観察されました。

そんな自分の心の声をパソコンに打ち続けました。

 

そしてある時、また平井さんは真本音状態と

なりました。

 

私はその瞬間を捕らえて、

彼に問いました。

 

「平井さん、

平井さんは社長に対して何をされたいですか?」

 

「私は、彼と向き合いたい。

私は彼と本当に向き合ったことは一度もありません。

私にとっては、教祖様なんです。

しかし、この関係を続けていては、この会社に未来は

ありません。

私は、彼と向かい合い、今後の経営の方向性や

私自身のリーダーシップについて、

彼と語り合ってみたいです。」

 

私の体の中心は、いつものように

ゾワゾワと痺れました。

 

「では平井さん、それをいつしますか?」

 

「この後、すぐします。」

 

「えっ? すぐですか?」

 

「はい。今が一番いい気がします。

今の私は、社長に何をどう話せばよいか

まったくわからない状態です。

だからこそ、良い気がします。

私のあるがままを彼にぶつけてみたいのです。」

 

「平井さん、怖くありませんか?」

 

「怖いです。笑」

 

「私も同席しましょうか?」

 

「いえ、これは私が一人でやらなければならないことです。

怖いですが、これをすれば私の人生は変わりそうです。

今、すぐに行きます。

社長は今なら事務所にいますから。」

 

なんと平井さんはコーチングを中断し、

そのまま社長のもとへ向かいました。

 

その日はたまたま、と言いますか、

こういうのを「必然」と言うのでしょうか、

平井さんも社長もこの後の予定が何もない状態でした。

滅多にないことです。

 

部屋を出る時に、平井さんは私に向かい、

「たけうちさん、怖いです。

でも、この怖さを拒絶せず、これを持ったまま

社長と向き合ってみます。」

と言って、笑いました。

 

真本音の風。

そういった言葉が浮かぶくらい、

私は平井さんから「風」を感じました。

それはとてつもなく清々しいものでした。

 

この人は本当に凄い。

 

と思ったのと同時に、

人間って本当に凄いなぁ。

と私は呟いていました。

 

つづく