心をどうしても開かぬ人。

しかもその人が組織の重要な役割を担う人の場合、

私は、やむを得ず、「一撃必殺のコーチング」をします。

 

本来、コーチングとは、

クライアントのペースで進んでいきます。

一歩一歩をクライアントの納得のスピードで

クライアントが自らの答えを見つけながら、

腑に落としながら進んでいくのをサポートします。

 

しかしビジネスの現場や組織活動においては、

そうも言っておれない場合があります。

特に、平井さんのケースは

彼自身の心が、もう持たないことを私は

感じ取っていました。

(→前回記事)

 

彼のペースで進んでしまっては、

彼は昔の私のように心だけでなく体も

壊してしまうかもしれません。

 

私から見れば、彼はそれほどの

限界状態に映りました。

 

では、「一撃必殺のコーチング」とは

どのようなものでしょうか?

 

それは、強烈な外圧による「一撃必殺」では

ありません。

 

クライアント自身が内側から自らを

「一撃必殺」するための

きっかけを与えるものです。

 

何を「一撃必殺」するのか?

 

それは、

クライアント自身が今、壊したい自分

を一撃必殺します。

 

その壊したい自分とは、

本来の自分(真本音の自分)を阻害する自分

です。

それがあることで、

自分の「本来の味」を消してしまう自分です。

 

しかしそれをするためには

一つの重要な条件があります。

 

それが、

「クライアントは今、真本音で

自分を阻害する自分を壊したいと思っているか?」

つまり、

「本来の自分を取り戻したいと思っているか?」

の確認です。

 

クライアント自身が「壊したい」と思っていないにも関わらず、

それをするというのは極めて危険です。

いえ、むしろそういった場合は、

何をしても効果はゼロでしょう。

 

私は、平井さんに意識を乗せ続け、

平井さんに自分のすべてを委ねながら、

その確認をするタイミングを待ちました。

 

そのために、何度も平井さんにお会いしました。

 

平井さんの真本音は

固く閉ざされた状態です。

いきなり彼の真本音の声を聴くことは

できません。

 

しかし、本当の意味で「向き合い続ける」ことで

そのタイミングは必ず来ます。

それまでは、私は通常のコーチングを

平井さんに対して続けました。

 

何回も何回も、通常のコーチングを

続けました。

 

コーチングですので、平井さんは

それなりに様々なことを考え、仕事の改善をし、

自分の行動を改善されました。

 

しかしそれはただの表面的な変化です。

本質的には何も変わっていません。

本人は気づいていませんでしたが、

彼自身は「変わったフリ」をしていただけです。

 

ですので、彼の行動変容はこの時点では

私の目的ではありませんでした。

恐らく、コーチという私の存在がいなくなれば、

彼の行動はもとに戻るだけだったでしょう。

 

それがわかっていて私は

通常のコーチングを続けました。

それは、ただ平井さんと向き合い続け、

平井さんの真本音の声を掘り起こすチャンスを待つ

という目的のためだけでした。

 

当初、私はこの状態で3ヶ月はかかるのではないか

と予測していました。

しかし、1ヶ月を過ぎた頃、

ついにその瞬間が訪れました。

 

自分を相手に完全に委ね、

向き合い続けていれば、

真本音が出る瞬間は必ずわかります。

 

私はその瞬間を捕らえました。

 

即座に私は彼に問います。

「平井さん、

平井さんの心は、どこにありますか?」

 

突然、そう問われ、彼はしばらく

停止しました。

 

そして、こう返されたのです。

 

「・・・不思議です。

どこにもないような気がするのです。」

 

つづく