リーダーシップ

自分の反省点をとても嬉しそうに喋るようになる

「弓江さん、

これまでの木村さんは、リーダーとして

何をし続けてきたと思いますか?」

 

この私の問いかけに、弓江さんは

 

「あぁそうか。

木村リーダーは必死に、

火消しをし続けていたのですね。

大火事にならないように。」

 

と答えました。

(→前回記事)

 

それを聴いた瞬間に、

「なるほど!!」

と木村さんは叫んだのです。

 

弓江さんがびっくりして

木村さんを見つめます。

 

木村さんは、目を爛々とさせ

私を見つめました。

そして言いました。

 

「たけうちさん、

私は何かとんでもない勘違いを

していたようです。」

 

「どういうことですか?」

 

「私はチームのメンバーに成長してほしいと

心から思っています。」

 

「はい。」

 

「そのために、私なりに考えて

あらゆることをしてきました。

もちろん、間違ったこともしちゃいました。

良かったこともありました。

しかし、成果が出たかどうかは別として、

根元がおかしかったということに

今気づきました。」

 

「根元? それは何ですか?」

 

「はい。私は、

私が皆を育ててやる!

と思っていたんです。」

 

「あぁ、なるほど!」

と、今度は弓江さんが言いました。

「それ、すごくわかります。

そこです。私が違和感を感じてたのは。」

 

「そうなんです。

先ほどこのコーチングの場で、

プロジェクトのミーティングの司会を弓江にしてもらう、

ということを決めたじゃないですか。」

 

「はい。」

 

「実は、あの瞬間から、私の頭のどこかでは、

では、どのように弓江を司会者として育てようか?

という思考が始まっていたのです。」

 

「なるほど。それは疲れますね。」

 

「その通りです。

私がすべての人を育てなければならないと

思っていた。

そして私なりにそれをしていた。

そして私なりに、その責任を負おうとしていた。

責任感そのものは大事だと思いますけどね。

で、皆がまずい行動をすると、

・・・いや、まずい行動をとる前から、

火消しに走っていた。

それが私のリーダーシップだったんです。」

 

「なるほど、そういうことですか。」

 

ここで弓江さんが入ります。

「一見、木村リーダーは

みんなを引っ張って行っているように見えますが、

私から見ると、全然進んでいる感じがしなかったんです。

なんか、火消しばっかりしているようで。

問題が起こる前に問題を消す。

それ自体はいいんですけど。

でも、それって本当に木村リーダーのやりたい

チームなのかな?って。

私の知っている、ロックバンドの木村リーダーは

火消しどころか、みんなに油を注いでいる、

というか。笑」

 

「確かに、ロックバンドの時とは

真逆の私ですね。

さっき弓江は、チームメンバーが活きていない理由は

私のリーダーシップとは別の原因があるのでは、

と言ってくれましたが、

やはり私が原因のようですね。」

 

「いや、でも木村さん。

その件に関しては、そうでもないかもしれませんよ。」

 

「どういうことですか?」

 

「木村さんのリーダーシップを根本的に変える

ということよりも、もっと単純で現実的なことを

ちょっとだけ変えるだけで、

一気に好転するような感覚がありますが、

弓江さん、どう思います?」

 

「私も、なんかそう思えます。

答えはわかりませんけど。」

 

「何となく今回のこの二人コーチングは

弓江さんが責め、木村さんが反省する、

みたいな流れが多いですが(笑)、

そんなに深刻にならなくてもいいような

気がしてきましたよ。

木村さんは、メンバーを育てたいのでしょ?」

 

「はい。」

 

「それは大事にしましょうよ。

ただの手法の問題だと思いますよ。」

 

「そういうものですか。」

 

「チームの真本音は、

『全員がチームの代表として

お客様と向き合う』

でしょ?」

 

「はい。」

 

「そういった木村さんの想いを

もっともっと成果として結びつけるために

何をどう変えるか?を見つけるだけでは

ありませんか?」

 

「なるほど。」

 

「で、その方策は、

そろそろ弓江さんの中から

出てきそうですよ。」

 

「えぇ? 私からですか?」

 

つづく

 

私はあなたのことが嫌いでした

後に、平井チームのナンバー2的な立場になる

生田さん(仮名)という男性社員さんがいます。

彼は、当時まだ20代後半。

しかし、公開コーチングにおける平井さんのメッセージに、

いたく感動しました。

(→前回記事)

 

後に生田さんは私に教えてくださいました。

 

「実は私は、平井のことが嫌いだったんです。笑

何を考えてるかわからない不気味なところが

ありましたので。

それに、社長の顔色を第一に伺っているのが

わかってましたし。

でも、あの一言で見直しました。

偉そうな言い方ですけどね。」

 

そしてさらに言われました。

 

「いつかの飲み会だったと思いますが、

そのことを正直に私は平井に伝えたんです。

私はあなたが嫌いでした、って。笑

そうしたら、平井は何て言ったと思います?」

 

「何でしょう? ごめんなさい、とか?」

 

「いえ、平井は真顔で私の話を聴いた後で、

真顔で言うんですよ。

今の俺は好きか?って。

恋愛じゃないんだから・・・。笑」

 

でもその時に、

あぁこの人は本当に可愛らしい人なんだ、

この人と一緒に会社を良くしていきたいなぁ、と

生田さんは本当に思えたそうです。

 

さて、そんな可愛らしい平井さんですが、

公開コーチングを一度やって

味を占めました。笑

 

社員さん達に何をどうメッセージしようか、

と思うと硬くなってしまうのですが、

コーチング形式で私に向かって自由に喋っていると、

自分でも気づかなかった想いや発想が、

次々に出てくる、と。

しかもそれをリアルタイムで社員さん達に

見せられるので、とても伝わりやすい、と。

 

「でも、特に打合せもせずにやるので、

変なことを口にしないか不安になりませんか?」

と私が問うと、

「いやいや、それよりもあるがままの私を

見てもらう方がよほど良いです。

おかげで、リーダーシップをとるのが

とても楽になりました。」と。

 

ただこれは、かなり覚悟の要ることです。

常日頃から様々なことを真剣に考え続けている

彼だからこそできること。

オープンな彼だからこそできることです。

 

結局彼は、公開コーチングを毎月一回は定期的に

開催するようになりました。

時折、社員さん達に向かってメッセージを投げる

だけでなく、

その場で社員さん達とのキャッチボール、意見交換

なども入れるようになりました。

時には、社員さんの一人に前に出てもらい、

皆の前で議論することも。

 

この場から様々なプロジェクトチームが

自然に発生しました。

新規事業が立ち上がったり、新会社が立ち上がる

きっかけにもなりました。

 

手法が大事なわけではありません。

 

大事なのは、真本音の想いを伝えることです。

最も伝わりやすい方法で。

 

平井さん流リーダーシップとは、

・人と人をつなぐこと

・真本音の想いを伝えること

この2本柱が基本です。

 

「私は、社員を主役にするリーダーになりたい」

という指針を持った平井さんが自然に編み出した

自分流のリーダーのスタイルです。

 

つづく

 

簡単簡単、ツボを押すだけ

組織には「ツボ」があります。

 

人間の体と同じく、

このツボを押せば健康になれる、

このツボを押せば活性化する、

という要所があります。

 

ただ、人間の体と違うのは、

その要所は、移動するということです。

 

具体的に言えば、

「今は誰にどのような刺激を入れることで、

全体の活性化につながるか?」

という、ツボとなる人が必ずいるということです。

 

しかもそのツボは、

人から人へと受け継がれていくもの。

 

そういった前提に立てば、

「今、ツボとなる人に対して、誰をどうつなげばよいか?」

が、組織活性化の最重要ポイントの一つになります。

 

前回の記事では「調和性」という考え方を

ご紹介しました。

(→前回記事)

 

その視点から言えば、

・今、ツボとなる人は誰か?

・その人と調和性の高い人は誰か?

・それらの人達をどのように結びつけるか?

というマネジメントをします。

 

それが「人と人をつなぐマネジメント」の基本です。

 

平井さんは、それをし続けました。

 

上記のように書きますと、

少し難しいことのように感じるかもしれませんが、

それは日常的に活用できることなんです。

 

例えば平井さんがいつも気にしていたのは、

今は誰と誰がランチを一緒に食べると良さそうか?

ということです。

 

ツボになる人がAさんだとして、

今はAさんと調和性の高い人はBさんだから、

AさんとBさんが一緒にランチすると良さそうだな。

そこでは、このようなテーマのお話をすると良さそうだな。

・・・というようなことを考え、

平井さんはAさんとBさんを一緒にランチに誘います。

 

誘わなくても、さりげなくそのような

シチュエーションを創ることもあります。

 

そしてさりげなく、そのようなテーマを

話題として出して、堅苦しくなく、

ランチを楽しみます。

 

例えば、ミーティングや会議も同様です。

 

今は誰と誰がどのようなテーマで

ミーティングを行なえばよいか?

そこでは、どのような席順で座ればよいか?

そして、どのような順番で

意見を求めればよいか?

などを発想し、そういった場を創ります。

 

ただし、発想した通りに絶対に物事を

進めなければならないということでは

ありません。

 

できるだけ綿密に発想しますが、

あとはその場のムードや流れに任せます。

 

「その方が面白い展開になりますから」

と平井さん。

 

こういったことを日常的に

繰り返していくだけでも、

組織の調和度合いや活性度合いは

根本的に変化します。

 

こういったことは平井さんは

最初からわかっていたわけではありません。

 

いつもじっと社員さん達を観察し、

(義務としての観察ではありません。

興味を持ち楽しみながら観察し続けていました。)

いつも順番に社員さん達と面談を続ける中で、

思いつき、自然にやり始めたことです。

 

しかしその効果があまりにも大きく、

いえ、大きいどころか

そういった些細なことから想定外の

面白い展開がたくさん生まれるのを目の当たりにし、

平井さんは

「何気ない日常における、一つ一つの“つなぎ”こそが、

組織活性化の要だ」

と気づかれたのです。

 

しかし平井流リーダーシップは

これだけでは終わりません。

 

普段、このような“つなぎ”をしておいた上で、

ある時、ある瞬間に、

ある大きな刺激を入れるのです。

 

つづく

 

想定外のマネジメント

「肚が据わる」という言葉があります。

 

肚が据わっている人は

精神的に非常に強い人である、という印象がありますが、

実は、そうではありません。

 

本当に肚が据わっている人は、

自分の弱さをすべて知っている人です。

自分の弱さをあるがままに見つめることができる人です。

 

自分の弱さにフタをして、イキがって勢いだけで進むのは、

「肚が据わる」とは真逆の状態です。

それは「ごまかし」です。

 

人は弱い。

 

自分は弱い。

 

そういった「事実」をあるがままに受け止められる人こそが

「肚が据わった」判断ができます。

 

「現実」とは、

想定外のことがいくつも起きます。

 

「想定外のことが起きること」

それが現実だと定義しても良いくらいです。

 

イキがって、「それは想定内のことだから」と言っているうちは

本質的には、現実逃避と変わりません。

 

想定外のことが起きた。

うわーっ、どうしよう?

混乱だ。混沌だ。自分を見失う!

というすべての現象をあるがままに受け取ることで、

私達は「肚が据わった」状態に入れます。

 

それは「覚悟を持った状態」であり、

人としての「自然体」です。

 

「自然体」に戻れば、

人は「最善の選択」ができます。

 

心配をしなくても、

「想定外のことがわざと起こるように出来上がっている」

のが「現実」なので、

それらをすべて楽しんで進みましょう。

 

さて、平井さんの話に戻ります。

(→前回記事)

 

私が平井さんに対して「すごいなぁ」と思えることの一つは、

「想定外のことを楽しむ」力です。

 

平井さんは言われます。

 

「私は、人が好きです。

なぜなら、人は、想定外だからです。

人は、予測できないからです。

あぁこの人のことはよくわかった、と思った瞬間に必ず、

その人は想定外のことをします。笑

それが、人の面白さではないでしょうか。

だから私は、人をコントロールすることをあきらめました。

想定外のことをするのが人である、というように

自分の中で定義づけることで、初めて

本当のマネジメントができるようになった気がします。」

 

そしてさらに続けられます。

 

「私にできることは、

人と人を結ぶことです。

今は、誰と誰を結べば、想定外に面白いことが起こるだろうか?

という観点から、マネジメントをしています。」

 

それが平井さん流のリーダーシップでもあるんですね。

 

しかし私こそ、平井さんに対して「想定外の面白さ」を

感じます。

あれだけ、自分を失くしていた人が、

今は自分を取り戻すどころか、人の可能性を

想定外に引き出しています。

 

「想定外の人生を楽しむ」平井さんの姿は

私の想定外でした。

 

私は平井さんから随分と

勇気をいただきました。

 

人生は、想定外だからこそ素晴らしい。

 

人は、想定外だからこそ素晴らしい。

 

想定外である人生を、

想定外である人を、

どのように活かすか?

それこそが、本来のマネジメントである、と。

 

マネジメントとは「管理」であると

一般的には言われていますが、

私は思います。

マネジメントとは、「自由」であると。

いかに人本来の「自由」を引き出すか?

それがマネジメントであると。

そしてそれが中途半端ではなく、

本当に成されることで、「調和」が起こると。

本当の自由は、調和を起こす。

その「調和」を起こすことこそが

マネジメントであると。

 

今の私の組織活性化サポートの核になる部分を

私は平井さんから随分と学ばせていただいたのです。

 

つづく

 

人の主体性はこれで決まる

「トップが変われば企業も変わる」

とはよく言われますが、

私も本当にその通りだと思います。

 

平井さんがご自分を取り戻してから約2年後、

社長は、

「平井にはもう何もアドバイスすることがなくなってしまった」

が口癖となりました。

 

もちろん、いろいろな紆余曲折はありました。

ぶり返しのお話は以前にも少し書きましたが、

自分を取り戻したはずの平井さんも

何度か以前の彼の状態に戻りました。

その都度、私は彼のコーチングサポートをしましたが、

それもだんだんと必要なくなりました。

 

実質的に平井さんは会社のトップとなり

平井流リーダーシップが確立されていきます。

 

平井流リーダーシップとは、

「社員を主役にするリーダーシップ」でした。

(→前回記事)

 

「社員を主役にする」とは、

言葉では簡単に言えますが、

これもなかなかに大変な道のりでした。

 

社員を主役にしたくても、その社員が会社に対して

依存的であれば、主役にされること自体を本人が

拒絶します。

たとえ拒絶されなかったとしても、

その社員が自ら主体的に覚悟を持って動かなければ、

物事は何も進みません。

 

実はこのジレンマに陥っている経営者は

数え切れないほどいらっしゃいます。

 

平井さんも

「社員を主役にすることはやはり無理だ」と

何度もあきらめかけました。

 

私自身も、平井さんのサポートをさせていただく中で

本当にたくさんのことを学ばせていただきました。

 

特にその中でも大きかったのは、

次のことでした。

 

「人が主体性を高めていくには、

その人一人を見るよりも、

その人がどの人と関わるか?を見る方が、

何倍も効果的である」

 

ということです。

 

例えば、Aさんという人がいたとします。

Aさんが、Bさんと関わりながら仕事をするのか?

それともCさんと関わりながら仕事をするのか?

によって、たとえ仕事の内容が同じであったとしても、

Aさんの主体性度合いや成長度合いは

大きく変わる、ということです。

 

ある意味それは「相性が良いかどうか?」ということに

なりますが、

しかし、そう短絡的なものでもありません。

例えば、

「あえて相性の悪い人同士をコンビにすることで

お互いの成長度を高める」

ということもあるわけです。

 

ですので、私はそれを

「調和性」

と呼んでいます。

 

調和性とは、

人と人が関わり合うことで

どれだけお互いの

・成長度合い

・相乗効果

・成果

に結びつくか?の度合いです。

 

調和性が高い人同士を選び、

その人達の距離を縮め、

調和性の低い人達同士はあえて距離を広げる、

という組織体制にすることで、

同じメンバーでも組織としての生産性は

何倍も変わってくるのです。

 

この発見は本当に大きかった。

 

しかも、調和性とは常に一定ではありません。

人が成長することで、徐々に変化します。

 

そのために、常に社員さんを観察し、

「今は、誰と誰をつなげることがベストか?」

を見出すことが、

平井さんのリーダーシップの要となりました。

 

平井さんは

「人を引っ張るリーダー」

から

「人と人をつなぐリーダー」

へと変化していったのです。

 

そして実質的トップであった彼のその変化は

組織全体に大きな変化をもたらしました。

 

つづく