主体的

人の主体性はこれで決まる

「トップが変われば企業も変わる」

とはよく言われますが、

私も本当にその通りだと思います。

 

平井さんがご自分を取り戻してから約2年後、

社長は、

「平井にはもう何もアドバイスすることがなくなってしまった」

が口癖となりました。

 

もちろん、いろいろな紆余曲折はありました。

ぶり返しのお話は以前にも少し書きましたが、

自分を取り戻したはずの平井さんも

何度か以前の彼の状態に戻りました。

その都度、私は彼のコーチングサポートをしましたが、

それもだんだんと必要なくなりました。

 

実質的に平井さんは会社のトップとなり

平井流リーダーシップが確立されていきます。

 

平井流リーダーシップとは、

「社員を主役にするリーダーシップ」でした。

(→前回記事)

 

「社員を主役にする」とは、

言葉では簡単に言えますが、

これもなかなかに大変な道のりでした。

 

社員を主役にしたくても、その社員が会社に対して

依存的であれば、主役にされること自体を本人が

拒絶します。

たとえ拒絶されなかったとしても、

その社員が自ら主体的に覚悟を持って動かなければ、

物事は何も進みません。

 

実はこのジレンマに陥っている経営者は

数え切れないほどいらっしゃいます。

 

平井さんも

「社員を主役にすることはやはり無理だ」と

何度もあきらめかけました。

 

私自身も、平井さんのサポートをさせていただく中で

本当にたくさんのことを学ばせていただきました。

 

特にその中でも大きかったのは、

次のことでした。

 

「人が主体性を高めていくには、

その人一人を見るよりも、

その人がどの人と関わるか?を見る方が、

何倍も効果的である」

 

ということです。

 

例えば、Aさんという人がいたとします。

Aさんが、Bさんと関わりながら仕事をするのか?

それともCさんと関わりながら仕事をするのか?

によって、たとえ仕事の内容が同じであったとしても、

Aさんの主体性度合いや成長度合いは

大きく変わる、ということです。

 

ある意味それは「相性が良いかどうか?」ということに

なりますが、

しかし、そう短絡的なものでもありません。

例えば、

「あえて相性の悪い人同士をコンビにすることで

お互いの成長度を高める」

ということもあるわけです。

 

ですので、私はそれを

「調和性」

と呼んでいます。

 

調和性とは、

人と人が関わり合うことで

どれだけお互いの

・成長度合い

・相乗効果

・成果

に結びつくか?の度合いです。

 

調和性が高い人同士を選び、

その人達の距離を縮め、

調和性の低い人達同士はあえて距離を広げる、

という組織体制にすることで、

同じメンバーでも組織としての生産性は

何倍も変わってくるのです。

 

この発見は本当に大きかった。

 

しかも、調和性とは常に一定ではありません。

人が成長することで、徐々に変化します。

 

そのために、常に社員さんを観察し、

「今は、誰と誰をつなげることがベストか?」

を見出すことが、

平井さんのリーダーシップの要となりました。

 

平井さんは

「人を引っ張るリーダー」

から

「人と人をつなぐリーダー」

へと変化していったのです。

 

そして実質的トップであった彼のその変化は

組織全体に大きな変化をもたらしました。

 

つづく

 

たった一人でも組織活性化は成る

この記事は、人の強みについて

書かせていただいております。

 

人の強みには後天的なものもありますが、

先天的なもの、つまりは「生まれ持った強み」

もあります。

 

とてももったいないことですが、

生まれ持った強みを日常的に、そして意図的に

活かしながら生きている人・仕事をしている人は

稀です。

 

私がコーチングをさせていただく場合は、常に

このクライアントさんの生まれ持った強みは何だろう?

という視点を持ち続けます。

そして、

それを掘り起こすための「スイッチ」を見つけ、

最善のタイミングで、そのスイッチを入れます。

 

そんな例として、ある中小企業の経営幹部の

中原さん(仮名)の件を書かせていただいています。

(→前回記事)

 

私は、中原さんの「スイッチ」は

『自己中心に生きること』

であると気づきました。

そしてそれを彼女にお勧めしました。

 

中原さんは「自己中心に生きる」ことに挑戦し、

その結果として驚くような成果をもたらすようになりました。

 

「自己中心」と言うと一般的には「わがまま」という

イメージがあります。

自己中心に生きることで、周りとの協調性が失われ、

確執や争いや不調和が起こるイメージですね。

 

一般的にはそうかもしれませんが、しかし

中原さんにとっては全くの逆でした。

 

中原さんはこれまで

「まずは自分を抑え、他者を主にした関わり」

を取り続けてきました。

それにより、確かに物事はうまく進展してきたかも

しれません。

しかしそれは、中原さんが本当に望んでいた生き方では

ありませんでした。

それどころか、

その生き方は、中原さんの生まれ持った強みとか

本来の個性を打ち消してしまっていました。

 

中原さんは自己中心になることで、

『毅然』

を手に入れることができました。

それこそが、彼女の「生まれ持った強み」だったのです。

 

面白いことに、

生まれ持った強みを発揮しているとき、

その本人は、「強みを発揮していること」自体を自覚しません。

あまりにもそれが「自然な振る舞い」だからです。

 

ですので、私は中原さんにフィードバックをする必要が

ありました。

 

「自己中心」が板についてきた頃合いを見計らって

私は彼女に告げました。

 

「中原さん、今の中原さんがどんな雰囲気か、

フィードバックしてもよろしいですか?」

 

「えっ? はい。どうぞ。」

 

「今の中原さんは、『毅然』を絵にしたような

立ち振る舞いですよ。」

 

「えっ? そうなんですか。全然自覚ありませんが。」

 

「でも、言われれば、お分かりになるのでは?」

 

「はい、そうですね。

今の私は、どんな状況があっても、まったくブレることが

ないような気がします。」

 

・・・と彼女は、淡々と断言されました。

 

これも、生まれ持った強みが発現し始めた人の特徴です。

 

恐らく以前の中原さんに同じ内容のことをフィードバックしたと

したら、

「いえいえ、とんでもありません。毅然だなんて。

そんなすごい私ではありません。」

というような、拒絶が返ってきたと思います。

 

しかし、生まれ持った強みが発現し始めると、

その人は自分を客観視できるようになります。

良いところは良い。

素晴らしいところは素晴らしい。

しかし、ここか次の課題である。

というように、淡々と自分を語ることができるようになります。

 

「中原さん、コーチングを始めた時点の状況と今の状況を

客観的に比べていただきたいのですが、

社員さん達の、中原さんへの関わり方は何か変化がありますか?」

 

「そうですね。

今から思えば、ですが、以前の社員は皆、私に甘えていたと

思います。

何があっても結局は、中原がなんとかしてくれる、というような

依存心があったと思います。」

 

「それが今は、どのような状態ですか?」

 

「今は、私に依存しようとすれば、私はその社員をすぐに

叱ります。

もしくは、時には無視します。

無視、というとひどいことのように思われるかもしれませんが、

必要以上に関わらずに、見守るだけの状態にします。

なので、誰も私には依存しません。」

 

「その結果、どうなりました?」

 

「みんながんばってますよ。(笑)

以前よりも格段に主体性が増したと思います。」

 

「生産性はどうですか?」

 

「数字にして見なければわかりませんが、

私の印象だけで言えば、2倍、まではいきませんが、

1.5倍くらいはいっている印象です。

これまでは私は一人でいろいろ抱えてましたから。

今は、社員に全部任せています。」

 

実は、当初私は、この会社の社員さん達の

チームコーチングを行なう予定でした。

実際に社長にはそのようなご提案をしていたのですが、

中原さんのおかげで、その必要がなくなってしまいました。

 

私は、中原さんのサポートだけをすれば

よかったのです。

 

この会社に関わり始めた当初、私は

中原さんが生まれ持った強みを発現すれば、

それが組織全体の活性化に直結するだろう、

と踏んでいたのですが、

私の想像以上にそういった展開となり、非常に楽でした。

 

組織活性化のためには、

その「要(かなめ)」となる人の活性化が不可欠である

ということを、私は改めて実感しました。

 

では、中原さんの生まれ持った強みである『毅然』とは

実際には、どのような形で

組織で活かされているでしょうか?

 

その辺りを次回でさらにご説明します。

 

 

つづく