「弓江さん、
日下部さんの人生のテーマは
何だと思います?
彼は、どんなテーマに向かって
生きていくことが、
彼自身の喜びであり、真の成長に
つながるでしょうか?」
この唐突な問いに、
弓江さんは目を白黒させました。
(→前回記事)
しかしさすがに弓江さん。
私の唐突な問いにも慣れてきたようです。
私が問う、ということは、
その人から今、答えが出る、という
確信を持った上での投げかけです。
どれだけ唐突に感じる問いでも、
必ず答えが出るはずだ、
・・・と、
弓江さんは信じられるようになったようです。
彼女は、一度目を閉じてから、
心を落ち着かせ、
すぐに答えました。
「ちょっと意味不明なのですが、
“夢”という言葉が浮かんできます。
夢に向かう、ということでしょうか。」
それを聴いて、私はピンと来ました。
「日下部さんという人は、
探究心が旺盛な方ですか?」
「あっ、そうですね。
それは言えると思います。」
「夢に向かう、ということよりも、
“夢の探究”ということではないでしょうか?」
「“夢の探究”・・・。
それは、どういうことでしょうか?」
「日下部さんは、恐らく、
物事の本質を突き詰めることに
喜びを感じる人だと思うのです。
ですから例えば、
夢とは何だろうか?
とか、
我々のチームは、どのような夢を持つことで
活性化するだろうか?
とか、
少し客観的に、夢というものを
突き詰めていく。
そんなテーマを持っている人のような
気がします。」
「それは、単純に自分の夢に向かいたい!
というのとは少し違うのですね。」
「そうですね。
彼からは、客観性を感じます。
客観的になればなるほど、彼は力を発揮する
のではないでしょうか?」
「あぁなるほど! それは確かに言えます。
彼はいつも、参謀的な立場に立つと
いつもイキイキしていたように思います。
ということは、彼は今、
客観的になれていないのかな?」
「その可能性はありますね。
チームのメンバーが半分になってしまった
からなのか、それとも
他の何かしらの理由があるのか。
それはわかりませんが、
今の彼の心の立ち位置は、本来の彼のものとは
異なっている可能性はありますね。」
すると木村さんが
口を開きました。
「あぁ、何となく、すごく腑に落ちます。
彼には今、このチームの未来が
見えなくなってしまっているのかな?
ひょっとすると、売上云々のことだけでなく、
もっとチームの未来について、
我々は語り合った方が良いのかもしれません。」
「それは良いですね!
あとは単純に、日下部さんに、
このチームは、どんな夢に向かっていけば
良いと思う?
・・・という問いを投げ続けるのも
彼の活性化につながるかもしれません。」
ここまでお話しできた時点で、
私の中に「完了感」が湧いて来ました。
日下部さんに関しては、
ここまでの語り合いでOK、という
真本音レベルでの合図です。
あとは、実際に日下部さんとお会いして
そこで何を感じるか?を
大切にすればよいでしょう。
日下部さんについて、
この二人コーチングの場で見えて来た
仮説としては、
まとめると、以下のようになります。
・・・・・・
日下部さんはどうやら、
チームのメンバーが半分に減らされた辺りから、
真本音度合いを落としているらしい。
具体的には、
物事に対して逃げ腰になり、
助けを求めるような精神状態にありそうだ。
そうなってしまった根本的原因として考えられるのは、
彼自身の真本音のテーマである
『夢を探究する』
という意識が、薄れてしまっている状態であり、
彼自身の特性としての、
『客観的な視点を持つ』
という本来の立ち位置から
今の彼はズレてしまっているから。
・・・・・・
これはあくまでも仮説です。
しかし、彼の「実在」を感じ取った上での仮説
ですから、
彼と向き合う上での一つの重要な視点には
なるでしょう。
あとは実際に彼と向き合うことで、
見えてくることは多いと思いますし、
その視点から彼と向き合うことで、
彼がチームにとっての「要」となり得るかどうか?が
判別できるはずだと、私は読みました。
つづく
木村さんと弓江さんの
二人コーチング。
私は今、お二人から
新規事業プロジェクトチームメンバー
お一人一人についての印象を
お聴きしようとしています。
(→前回記事)
「まずは木村さんにお訊きしますね。
木村さんが今、直観的にお顔の浮かぶ
チーム員はどなたですか?」
すぐさま木村さんは答えました。
「日下部です。」
「年齢は?」
「29歳の男性です。」
「彼についての印象をざっくばらんに
お話しください。
詳しい情報は要りません。
本当に、印象だけで結構です。」
「・・・そうですね。
真面目な人間です。
でもちょっと真面目過ぎるというか・・・。
物事をきっちりとやろうとし過ぎているところが
あります。」
「弓江さんは、いかがですか?」
「確かに真面目ですね。
ただ、私から見ますと、真面目さよりも
ちょっとこだわりが強過ぎる気がします。
言われたことをそのまま行なうよりも、
自分なりの考え方に歪曲してしまうというか。
頭の良い人だと思いますが、
時々、かなりずれたことを言ったりやったりします。」
「良いところはありませんか?」
「妥協しないところですね。
サボろうとか、適当にやろうとか、
そういったところがありません。
実にコツコツと、決めたことをやり続ける
というところがあります。」
「彼との仕事はやりやすいですか?」
木村さんが答えます。
「やりやすい時と、そうでない時の差が
大きいかも知れません。
私の意図と、彼の意図が合致する場合は
とてもやりやすいですが、
そうでない場合は、そこを修正するのに
かなりの時間がかかります。」
「弓江さんはいかがですか?」
「仕事のやりやすさは、何とも言えませんが、
彼としゃべるのは、結構楽しいです。
時々、意見がぶつかることもありますが、
彼は彼なりに考えて、しっかり意見を言うので、
有意義な時間になります。」
「彼の仕事における悩みは何だと思いますか?」
そこで、二人とも「えっ?」という表情に
なりました。
あまりそういった視点で考えたことが
なかったのでしょう。
やはり木村さんから答えました。
「う〜ん、そうですね。
どちらかと言えば、彼は自分の考えを
押し通すことが多いですから、
いかに周りを説得させるか?という
悩みが多いのではないでしょうか。」
弓江さんが言います。
「あまり彼が悩んでいる感じは
私はしません。
悩むことよりも、突き進むことの方を
彼は大事にしているように思いますね。」
この辺りから、私は
日下部さんの「実在」を強烈に感じ始めました。
まるで彼が
この場にいるかのような存在感を
覚えるようになりました。
これも、いつものことです。
ここからが、「実在コミュニケーション」の
スタートです。
私は、日下部さんの「実在」から、
すごく重いものを感じ取りました。
そこに意識を向けると、
あえて言葉にすれば
「助けてください」
と言われているような気がしたのです。
「弓江さん、
実は、今私が直観的に感じたことなのですが、
今、日下部さんは何か助けを求めていませんか?
そのような気配を感じたことはありませんか?」
その瞬間、弓江さんの顔が
驚きの表情となりました。
つづく
新規事業プロジェクトチーム。
木村さん、弓江さん以外の「要(かなめ)」となる
チーム員を特定するために、
私はチーム員の皆さんとお会いすることに
なりました。
しかしその前に、
木村さんと弓江さんのお二人から、
それぞれのチーム員に関しての印象を
聴くことにしました。
(→前回記事)
これは、いつも私が行なうことです。
まずはリーダーやマネージャーが抱いている
部下の皆さんへの印象をお聴きした上で
その皆さんと実際にお会いするという
ステップです。
ひょっとするとコーチによっては、
印象を聴くことで、要らぬ固定観念を
生んでしまう、
それよりもまずは、固定観念のない状態で
本人とお会いしたい、
と考える人もいるかもしれません。
しかし私の場合は、
まずは「印象」を聴くことを
大事にしています。
なぜならそれは「印象」でしか
ないからです。
どれだけ「印象」を聴いていたとしても、
本人と、本当の意味でしっかりと向き合えば、
その「印象」に捕らわれることは
ありません。
むしろ、もし「印象」とまったく異なるものを
感じた場合には、
「実際に見たもの」と「リーダーの持っていた印象」の
差が明確になります。
その差を知ることが、
チーム(組織)活性化の突破口となることが
往々にしてあるのです。
さらに私の場合は、
リーダーの方達がお話しされる「印象」の
内容そのものは、ほとんど気にしません。
ちょっと失礼な言い方になりますが、
「印象」そのものは、どうでもいいのです。
それよりも、
「印象」を語っていただきながら、
私は、そのリーダーから受ける、その部下の「実在」を
感じ取ります。
「実在コミュニケーション」と
私が呼んでいるものの一種なのですが、
リーダーがその人のことを語ることで、
そのリーダーを通じて、その部下本人の
「実在」のレベルにおける
現状把握をするのです。
例えば、その部下本人の
現時点での真本音度合いは
どれくらいか?
どれくらいの真剣さで
仕事に向かい合っているか?
チームへの調和度合いは
どれくらいか?
その人は、自力成長(進化)できる人かどうか?
・・・などなど。
本人に合わずとも、
感じ取ることができます。
もちろん、本人に実際にお会いしたほうが
よいですが、
人を介しても、ある程度わかることは
あるのです。
これは決して超能力的なことではなく、
人間誰しもがもともと持ち合わせている
コミュニケーション能力の一つです。
私達人間のコミュニケーション能力は
凄いのです。
その本来の力を
使っている人はほとんどいないのが
残念なのですが。
私は、できれば、
すべての人がそういった本来持っている
コミュニケーション能力を
使えるようになればいいな、と
思っています。
ですので、私はクライアントさんに対して、
「実在コミュニケーション力」を高めることも
コーチングの大事な目的の一つと
しています。
実際に、
私の継続サポートを受けている人の何割かは
この力が、かなり伸びます。
そうすると、
すべての展開が本当に楽になるのです。
木村さんと弓江さんから
チーム員の皆さんの印象を聴くというのは、
お二人の「実在コミュニケーション力」を高める
最初のステップという意味もあります。
新規事業プロジェクトチームのメンバーは
木村さん、弓江さん以外に
4名います。
少人数ですので、
逆に、綿密な実在コミュニケーションも
できるでしょう。
目的は、
「戦略」を見出すため。
以前にも書かせていただきましたが、
「戦略」とは、
最も楽に進めるであろう道のことです。
そのためにも、
「要」となる社員さんを特定するのです。
つづく
木村さんと弓江さんの二人コーチングに
話を戻しましょう。
(→【本物のエネルギーは、落ち着きと覚悟を生む】)
弓江さんは、
脱皮を果たしました。
弓江さんが脱ぎ捨てた古い皮は、
「正義」
でした。
そしてそれを手放した直後に彼女は
「私が皆を引っ張る」
という覚悟を持ちました。
彼女は言いました。
「私にしかできないことが
ある気がします」と。
その一言を聴いた瞬間に、
今度は木村さんの脱皮が
一気に進んだのを私は感じ取りました。
「木村さんも今、
もうほぼ脱皮を完了したようですね。」
「あぁ、そうですよね。
何となくわかります。」
「木村さんが脱ぎ捨てようとしている
古い皮は、今、実在レベルでは
どのような状態だと思いますか?」
「ほとんど脱げましたが、
私の右腕に脱いだ皮がまだ
こびり付いています。
右腕がとても重いです。」
「木村さん、よく観察してください。
その右腕についている皮は
いったい何でしょうか?」
木村さんは目を閉じて
右腕に集中しました。
そして、
「あの、・・・これでしょうか。
“我が想い”という言葉が浮かんできますが。」
「へぇ、面白いですね。
“我が想い”を脱ぎ捨てるのですか。
“我が想い”というと、真っ先に思い出すことは
何ですか?」
「売上を当初の目標の1.5倍上げてやろう、
という私の気持ちを思い出します。」
「木村さんは今、
それを手放そうとしているんですね。」
「いや、・・・それはまずいと思います。
それを手放してしまったら、
目標達成できなくなる気がします。
今のモチベーションも消えてしまう気がします。」
「本当にそうですか?
一度、手放してみてはいかがですか?」
「いや、しかし・・・」と、
しばらくの時間、
木村さんは拒んでいました。
しかしどうにも右腕が
重くなってきました。
「いやぁ、もう右腕が不快で
しょうがないです。」
「やはり木村さんは、その“我が想い”を
手放したいのでしょ?」
「そうなんでしょうか。
・・・いやぁ。でも、もう嫌だなこの感じ。」
「思い切って手放してしまっては?」
「ちょっと怖いですが、
どうもそうするしかないようです。
わかりました、手放します。」
「どのように手放します?」
「・・・自分でやります。」
そう言って木村さんは、
自身の左手で、右腕にこびり付いているものを
ベリッと引き剥がすようにしました。
その瞬間、
フッと私も、体が軽くなった感覚を得ました。
「できたような気がします。」
「そうですね。できましたね。
どうですか?
“我が想い”を手放した感じは?」
「いや、なんか、いたって普通です。」
「売上1.5倍については、
いかがです?
どう思いますか?」
「あぁ・・・、不思議です。
さっきまで、結構、自分は自然体で
売上1.5倍をやろう、と思えていたつもりでした。
でも今、さらに力が抜けました。
いや、力が抜けるというよりも
力を入れようが入れまいが、どうでもいいような・・・。
だって、達成するのは当たり前のような
気がするんです。
やることをやるだけ。
達成するのが普通のこと。
そんな感じがします。」
その時私は感じました。
木村さんはニュートラルに淡々とした
表情になっていたのですが、
その奥に、とてつもないパワーが
宿っていることを。
あぁこれは、
本当に物事を成し遂げる人の空気感だ
と思いました。
何の気負いもなく
淡々と凄いことを成し遂げていく
深いパワー。
これこそが、
木村さん本来の空気感であると
私は確信しました。
つづく